一度、二度……と、銀閃が閃き合う。

 その度に二人の身体は近づき、そして離れていく。

 

 二人の間には既に迷いは無い。

 それは先の戦いで互いの想いを知ったからということもあるし、戦いの後、互いに過ごした時間とその時間でした決意も影響しているのだろう。

 護りたいもの、互いはそのために戦う。

 

 もうそれ以外にどうしようもない、のではない。

 それが自分達にとって今成すべきこと、なのだ。

 

 だから二人は、護るべきもののために武器を振るう。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第十五話 護るべき想い、交差する剣

 

 

 

「"光速の雷弾(レールガン)"!」

 

 出し惜しみはしないつもりだった。

 こんな戦場、二人の戦いに介入してくる兵はいないし、だとしたら力を温存するだけ無意味。

 故に、初めからの全開出力。

 

 光速と化した雷の球はノアルを貫かんと放たれるが、メインの点をあっさりと見切られそれは地を穿つ。

 

「そんな攻撃で、私は仕留められないよ!」

 

 そして、全力であるのは彼女とて同じ。

 剣を振り上げ、そこへ魔力を集中させていく。

 

「"魔剣・破砕滅撃(グラッデ・コンバニオン)"!」

 

 魔力による限界までの威力強化を施した剣。

 それがルークへと向け振り下ろされる。

 その攻撃に、防ぐと言う防御方法はまず通用しない。

 防御や結界に余程の自信を持たない限り、この技の前では殆どの防御は打ち砕かれてしまうのだ。

 だからルークはそれを避けることで回避するが――

 

――……覚えてる、のかな。

 

 純粋な記憶とは違う、身体の記憶。

 この身体は、確かに彼女のことを覚えている。

 それは新たに分かった確かな事実だった。

 が、その想いに浸る暇は無い。

 

 ノアルの放った一撃は地面を穿ち、それと同時、剣を覆っていた魔力が爆発を起こしさらに地面を深く抉った。

 破片が飛び、それが扇状に広がってルークを襲う。

 

「ふっ!」

 

 だがそんなもの、と言わんばかりに地面を蹴り避ける。同時に、もう一度地面を蹴って肉薄した。

 ノアルもそれに対応すべく剣を構え直すが、あの大振りの一撃の後では少しだが遅い。

 

「――魔力は弾丸となる――」

 

 弾丸を込めつつ、全力を持って『砲裂剣』を振り下ろす。

 金属音。同時、互いの武器が交わった。

 だが、やはりノアルの反応の方が一瞬だけ遅れたようで、若干ルークが押している結果となった。

 そして、ルークが力をこめればジリジリとノアルが押されていく。

 このまま押し切れれば、とは思うのだが、そうは許してはくれないらしい。

 

 ノアルが剣から手を離し、その手を覆う鉄甲に魔力を込めるのを見た。

 そして、その手を握り締め――

 

「"魔甲・裂壊陣(レディオ・ティオノイズ)"!」

 

 ルーク目掛け放たれた。

 

「ッ!」

 

 彼女の攻撃は、魔力強化を利用した攻撃力重視の技がメインなのだろう。

 だからその攻撃も、やはり受けではなく避けに専念することにした。

 『砲裂剣』を引き戻し、咄嗟に後ろへと飛んで、それを避けた。

 

 いや。避けたはずだった。

 しかしそれだけでは終わらなかったのだ。

 鉄甲を覆っていた魔力が少女の意思を持って意図的な暴走、爆発を起こし、それが衝撃となりルークを吹き飛ばしていた。

 

「う、わぁっ!」

 

 どうやら身体の記憶もあまり鮮明ではないらしい。

 そんなどうでもいい事実までも理解しつつ、ルークの身体は地面を転がる寸前、何とか空中で体勢を整えて着地した。

 本当。この背中の翼がこういった行動の時に使えないのが憎たらしい。

 

「余計なこと考えてる暇は無いよッ!」

「別に考えてるつもりは無いんだけどね……ッ!」

 

 『砲裂剣』を構えなおすと同時、ノアルが肉薄してくる。

 そして生まれる、先程とは正反対の状況。

 ルークが押され、ノアルが押す。

 

 ……いや、正反対などではなかった。

 

 状況は、不利。

 ノアルの時は強引にルークを引き剥がせたが、ルークにはそんな技も無ければ力も無い。

 ルークは、抵抗する術を持っていないのだ。

 故に、不利。

 

「ぐ……ッ!」

 

 同い年程度の少女に力で負ける、というのも情けない話だとは思ったが、今はそんなことを言っている時ではない。

 まぁもっとも。戦場でそんな差が云々と言ったところでどうしようも無いわけでもあるが。

 閑話休題。

 とにかく、ルークは今の自分で出来ることを探す。

 こんな状態では能力を使うこともままならないし、だがかと言って押し返す手段も思い浮かばない。

 

――だったら……受け流すまでッ! 

 

 今まで押し返すのに注いでいた力を、全て抑えた。

 すると、力という支えを失った『砲裂剣』はノアルの剣に押されて大きく横へ逸れ、同時にノアルの持つ剣もそれに沿って横へと逸れる。

 その隙を見計らい、ルークは再度距離を取る。

 何とか自分の攻撃しやすい位置まで移動しなければ、このままでは防戦一方になってしまう。そう思ってのことだったのだが――。

 

「"魔剣・天空断斬(グラッデ・リグレイド)"!」

 

 それは、まさに予想外。

 彼女の放った一閃は――宙を駆けたのだ。

 ルークも、ルークの身体もそれを覚えてはいなかったが、これは魔力を刃として放つ技。

 そして、この距離ならば安全域とそう思ってしまったルーク目掛け、その一撃は襲い掛かった。

 

「っ……ぐ、あぁッ!」

 

 当然、それは不意打ちに近い一撃。

 ルークは反応こそできたものの、回避までには至らず、その一撃はルークの肩を深く切り裂いた。

 燃えたように肩が熱くなり、血が噴出す。

 それが左肩だったのが幸いだろうか……。

 まだ利き手は生きていることだけが救いだった。

 

 だが、それでも片腕が使えなくなるということは、戦場という場においてはかなりの痛手となる。

 魔術師ならばともかく、ルークは剣士だ。

 腕一本とて、それはかなりの戦力低下に繋がってしまうのだ。

 

――どうするかな……。

 

 片腕だけで『砲裂剣』を構え、ルークは考える。

 このままではおそらく負けるのは自分だ。

 だから、何処かでこの状況を覆さないといけない。

 

 しかし、それを考える暇は既に無かった。

 舌打ちをしたルークの正面。

 既に次の攻撃のためにこちらへと駆けてくるノアルの姿が、そこにあった。

 

――この状態で力比べは……ゴメンだっ!

 

 もしこのまま先程のように押し合いになれば、負けるのはもう目に見えている。

 だからそうならないよう、ルークは迫り来るノアルへと弾丸を三発放った。

 それぞれが、ノアルの頭、胸、足を狙った銃撃。

 突進してきている今の状態で避けるのは難しいはず。

 

 その攻撃を、ノアルは辛うじて横へ飛んで避けた。

 だが読みは正しかったらしく、体勢を崩しながらの回避だった。

 そして――それを狙ったからこそ、ルークは当然その隙を逃さない。

 さらに残る三発。

 それを全て、ノアルの足元目掛けて撃った。

 当然、これにも狙いはある。

 今の体勢から、ノアルが回避行動を取るためには既に一方にしか道は無いのだ。

 

 そう。

 それは即ち、空。

 

 ルークの思惑を悟ったのか、ノアル自身も足を使って避けていては回避は間に合わないと判断し、翼をはためかせて空への緊急回避を行った。

 だが、そうやって空へ逃げさせるように誘導したということは、当然それがルークの狙い。

 確かに相手が神族や魔族であれば、空は彼等の領域なのだろう。

 しかし、同時にルークから見ればそれは戦況が広がる、むしろ戦いやすい舞台なのだ。

 

 それは彼自身の能力や、持っている呪具も影響するのだが、その中でも大きいのは能力の存在。

 相手が空にいたとしても、彼の能力はそんなハンデを打ち消してくれるのだ。

 

「『迅雷球(サンダー・ボール)』!」

 

 ルークは再度その雷の魔術を放つ。

 だが、今度はいつもとは違う。

 確かにその一つ一つに込められた魔力量は同等だ。当然、威力も。

 ただし。

 その数は――十五。

 現状で彼が発現できる最大数である、十五個の雷の球が彼の周りを取り巻いていた。

 

 そしてさらには、その全てに点が設定される。

 それを一気に集束させた時には、使用する魔力量は間違い無く上級魔術数発分に相当するだろう。

 だが、それでもルークは躊躇しない。

 全力を出し、出し惜しみなどしては勝つことなど不可能なのだ。

 故にルークは自身の持てる全てをぶつけると決めていた。

 

 そして放つ。

 これが、ルークの最大の技。

 

「"天を駆けし雷の流星(メテオライト・レールガン)"ッ!!」

 

 一つの雷弾が放たれる。

 その雷弾に込められるのは――メインの点。

 そして――

 

「集えッ!!」

 

 その雷弾目掛け、全ての雷弾が殺到した。

 

「ッ!」

 

 当然、それを真正面から見ていたノアルは回避を選ぶ。

 メインの点を消し去ってしまえば、確かにあの全ての雷弾の速度も消え、脅威は半減するだろう。

 だが、そうだとしても。残り、迫る十四の雷弾に対応しきる自身は無かったのだ。

 故にその広がる雷弾の軌道から逸れれば、避けられるだろう。そう思っていた。

 

 だが、果たしてそうだろうか。

 果たしてルークは、そんな良ければどうにかなる技を最大の技などと果たして呼ぶのだろうか。

 答えは、否。

 ルークの技は、決して回避は容易くなど無かったのだ。

 

「ぐ……ッ!」

 

 度重なる無理な魔力行使による痛みが、傷ついた肩の痛みが、ルークの体を襲う。

 だが、それを押し留め、ルークは集中する。

 これぐらいで、自分は止まらない。

 

 そして行うのは――メインの点を設定した雷弾の操作(、、、、、、、、、、、、、、、)

 サブの点の雷弾がメインの点の雷弾にぶつかり相殺しあう前に、ルークはメインの点の雷弾の軌道を変えたのだ。

 するとどうだろうか。

 残る雷弾はあまりに唐突な軌道変換に対応出来ず、多少の距離を開けてから再度メインの点を追う。

 そして……それは、再度ノアルへ向け殺到した。

 

「そんなッ!?」

 

 まさか、こんな方法で雷弾を操作するとは予想できなかった。

 それもこんな、まさに空で行うからこそ。地面にぶつかったりする心配が無い空で行うからこそ、その脅威を発揮するような攻撃をするとは。

 完全な、予想外。

 

 翼をはためかせノアルはさらに上空へと逃げるが、それをルークの操作する雷弾は追う。

 そしてその後方、十四の雷弾もまた、追った。

 

「それなら……ッ!」

 

 それを見て、もはや逃げ切るのは無理と踏んだのだろう。

 ノアルは反転すると、それを迎撃すべく剣を構えた。

 ……だが、彼女はまだ知らない。

 知る由も無いのだ。

 その技の、本当の脅威を。

 この技は一方からの広範囲攻撃でもなければ、一点集中の連続攻撃でもない。

 その本当の能力は――これなのだ。

 

 ルークが手を横へ払う。

 すると、雷弾も同じく横へと逸れ――だが次の瞬間には、ノアルを旋回し始めたのだ。

 そしてノアルは、その段階で全てを察した。

 自身を回る雷弾。

 そしてそれを追尾する十四の雷弾。

 果たしてそれは、どういう答えに繋がるのだろう。

 簡単な答えだ。

 僅か一つの雷弾へと集束しようと、全ての雷弾は完全に異なる方向から、ランダムにノアルにも襲い掛かる。

 

 そう。

 この技は、対個人用の、全包囲攻撃。

 さらに軌道までが不規則に変化する、回避も困難な技なのだ。

 

「こんな攻撃で……!」

 

 だがノアルも諦めはしない。

 

「私にだって、護りたいものがあるんだぁぁぁぁぁッ!!」

 

 叫び、剣を構え、振るう。

 自身に迫る光速の雷弾を、その極限まで研ぎ澄まされた反応で真っ二つにしていく。

 しかし。それでも彼女の肉体のキャパシティには限度があった。

 彼女が対応できたのは、せいぜい四つ。

 残る十の雷弾に彼女の反応は間に合わず――

 

「つぁっ! きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 ノアルの絶叫と同時、全ての雷弾は彼女へと直撃した。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 さて、久々の戦闘シーンですが、かなりアレな出来になってますが気にしないでください。

 自分自身では結構調子がよく書けてるつもりですが、まぁ文章力が低い私にはこれが限度ですので。

 迫力溢れる戦闘シーンなんて、夢のまた夢ですねー。

 

 まぁそれはさて置き。

 まるまる一話を使ったルークvsノアルの因縁の対決。

 決着は、おそらく予想通りルークの勝利です。

 まぁ、主人公が負けては話が成り立ちませんしね。お都合設定です(ぉ

 

 さてさて、次回は皆さん知っての通り、シズク戦がメインになります。

 さらに、彼等の場合はちょっと戦いにくい理由がありますが、それは多分分かっているかと。

 まぁ分からない方も次回を読めばきっと……。

 

 というわけで、ネタバレはここまでです(ぁ

 本日はここで失礼しますね。