明朝。二分されたカノン軍はエア、クラナドへ向け出発した。

 もちろん予定は変わる事無く、彼等。元・エア第四部隊のメンバーは皆、エアへ向かう部隊にいた。

 昨夜騒ぎあった彼等。

 既にそこに昨夜の賑やかさは無く、彼等の間に走るのはただ静寂のみだ。

 誰もがその胸にエアへ向けた想いを抱き、そしてそれと決着するべくそこにいた。

 

 間違いは無い。

 全ては、この戦いで終わる。

 否。終わらせるのだ。絶対に。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第十四話 全てを終わらせるために

 

 

 

 グエインTへ到着した時には、既にかなりの時間が経っていた。

 おそらく既にもう一つの部隊はクラナドへと到着している頃だろう。

 しかし、今はそんなことを考えている暇は無い。

 ……いや、そんなことを考えるよりは、目の前に広がった妙な光景に関して悩むことの方が先だった。

 

「誰もいない、よね」

「あぁ、誰もいないな」

 

 辿り着いたグエインT。

 ルーク達は、そこでの戦闘はまず避けられるものではないと踏んでいた。

 故に、エアが戦いを行う際には守りの要となるこの場所がまさか無人であろうなんてことを誰が考えただろうか。

 そこには物音どころか、気配一つ無かったのだ。

 

「何も無い……ってことは無いよなぁ」

「戦力を合同するつもりなのかな」

「それなら、むしろグエインTの方が都合がいいと思うんだけど」

「そうね。……考えるとしたら、罠かしら」

「……グエインTを捨ててまで仕掛ける価値のある罠って――」

 

 何だよ? と少年が問おうとしたまさにその瞬間。

 

 耳をつんざく轟音が、その場を穿った。

 空が紅に染まるほどの爆発が巻き起こっていた。

 

 誰もが驚愕とする。

 その信じようにも信じれない、とんでもない光景に空を見上げて、そして唖然とした。

 

「……うっそー……」

「いや……これはマジでしょ。……でもまさかこんなのを仕掛けてるなんて……」

「向こうも本気……ってことでしょ。でも、まさか誰かが踏み込んだなんてことは無いわよね?」

「んー……それは無いみたい。相沢王も無事みたいだし」

「そういやお前って気配探知は得意だっけか」

「うん。精度も結構高いから信用してくれていいかな」

 

 まぁ、戦闘を切っている祐一が無事ならば特に支障は無いということだろう。

 とりあえず戦闘前に戦力を失わずに済んだことに彼等はホッとする。

 

 しかし。彼等の驚愕はそれだけでは終わらなかった。

 突如として空中に巨大な魔術陣が出現したのだ。

 そして誰もが再度驚愕したその時、その陣から、一匹の使い魔が召喚された。

 ……いや、一匹と表現していいサイズなのかは分からないが、だがそれでも個であることに変わりは無い。

 

「……何? あれ」

 

 その質量、大きさ、魔力。全てが異常。

 神獣クラスと言って過言ではないほどの気配は、そう。

 その召喚獣こそカノン軍が誇る、水菜の操りし最強の使い魔。玄王だった。

 その質量たるや、地面に下りるなり地響きが辺り一帯に走る。

 しかしそれだけでは済まない。

 ここからでは見えない主の命を受け玄王はその巨大な頭を頷かせ、一気に集束していく水のマナ。

 そしてそれは、水とは見えない程の放流となりて前方に存在する全てを吹き飛ばした。

 

「あぁ、ルークは見るの初めてか?」

「え……うん、いや待って。初めても何も、あんなのが存在していいの?」

 

 神獣クラスの使い魔。それはルークだって存在を知らないわけではない。

 だが……あの質量はちょっと……アウトだろう。

 召喚するだけで、それがもはや脅威になりうるなんて反則だ。

 

「存在しているんだから、いいとしか言い様がないだろ。あぁ、ちなみに俺等は前のワン遠征の時に見た」

「……もう、いいよ。カノンって突っ込みどころが多いってことが分かったから」

 

 突っ込みどころと言っては失礼だろうか。

 いやでもこんな信じられない光景、もはやそう言うしかないのだから仕方無いのだろうか。

 ……どっちでもいいか。今の場合は。

 

「前、進み始めたみたい。遅れないように私達も行こ?」

「そうだね。こんな所で時間を食うわけにもいかないし、行こうか」

 

 とりあえず色々あったが、彼等は再度歩を進め始める。

 目指す場所は、もうすぐだ。

 

 

 

「観鈴様、大丈夫かな」

「なるようになるだろ。それに、相沢王もついてるし」

 

 現在、部隊はエアからの攻撃の射程範囲外にて待機していた。

 その理由は、その少し先に見える二人。祐一と観鈴だ。

 理由はよく分からないが、ルーク達とてよく知る彼女のこと。最後の説得を試みようとしているのだろう。

 

「違うよ。僕が言いたいのはその先。……観鈴様は優しいから、きっと目を瞑りたくなることだってあると思うんだ」

「大丈夫じゃないかな? どういう形であれ、このことは観鈴様本人が決めたことだし。ルークだって観鈴様の強さは知ってるでしょ? だからきっと大丈夫だよ」

「……そうだね。考えるだけ無駄かな」

「そういうこと――って……あぁ。やっぱり交渉は決裂か……」

 

 自分達も元はこの国の住民だ。

 この国がどういう考えの下動いているかは、重々承知。

 だがそれでも観鈴の行動に反感を抱かなかったのは……そう、信じているからだろうか。

 観鈴が最後の説得を試みたのは、決して意味が無いわけではないと思ったから。

 そしてルーク達にもまたその想いはあったのだ。

 考えは違っても、どこかできっと分かり合えるはず。

 

 そんな儚い希望を抱いて――そして、それは崩れ去った。

 

 大量の矢、魔術が二人に襲い掛かる。

 だが、それで心配するものは誰もいない。

 誰もが知っているのだ。祐一の強さを。

 故に心配は無用。

 エア軍の攻撃で巻き上がった砂塵が晴れれば――ほら。

 二人は、無傷で立っていた。

 

 そして光と闇。本来存在成し得ない白黒の一撃がその形を成し――一撃でその場に存在する全てを穿ち貫いた。

 

 それを合図に全ての兵が進軍を開始する。

 そして彼等は着く。

 自身等が従うべき王。主の下へと。

 

「聞け! 勇敢なるカノン、そしてワンの精兵たちよ!」

 

 祐一が吼える。

 

「敵は巨大。だが恐れるな! 我らの歩みは誰にも止めること叶わず! 今こそ雌雄を決するとき!」

 

 手に持つ剣を掲げ、天へ向け叫ぶ。

 

「剣を抜け! 槍を持て! 弓をつがえろ! 詠唱を謳え! 神の血脈を名乗り我らを見下すその傲慢さを踏みにじり、見せ付けろ我らの力!」

 

 全ての想いをその言葉に乗せ、言い放つ。

 

「守る者を思い出せ! 帰る場所を思い出せ! 己の意思と想いと魂を、その武器に宿し相手に刻み付けろ! そして高らかに勝利を叫べッ!」

 

 振り返る。

 切っ先は――エアへと。

 

「さぁ、進め、進め、疾くと進め! 誇りを胸に! 誓いをこの手に! 我に着いて来い! 行くぞ! 全軍構え―――――――ッ!!」

 

 そして告げた。

 

「全軍……突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「「「オオオオオオオオオッ!!」」

 

 大地を揺るがし、空気を穿ち、空を割らんと咆哮が上げられた。

 そして、最後の――全てを終わらせるための戦いが始まった。

 

 

 

 佐祐理の放つ雷の魔術、シャルの放つ弾丸。

 双方の嵐が道を封じるエア兵達をことごとく吹き飛ばす。

 

「ついてこられる者だけ来い! 行くぞ!」

 

 そして祐一が叫び、その開いた穴に兵達は突撃した。

 

「んじゃ、次に会う時は勝利の喜びの中で、だ!」

「その時ぐらいは精一杯飲んで、楽しもう!」

「絶対に勝って、そして生きて戻るわよ!」

「分かってるよ! 皆――また、会おうッ!」

「「「もちろんッ!」」」

 

 彼等もまた、兵達の中に紛れ散り散りとなった。

 だがもう惑いは無い。

 チームワークが最大の武器の自分達ではあるが、決して個々では戦えないわけではないのだ。

 それに、必要な時だけ助け合うのが彼等本来のスタイル。

 故に今はこれでいい。

 本当に必要なその時、彼等は本当の力を発揮するのだから。

 

「さて、全力で行くよっ!」

 

 本当なら独り言に近い叫び。

 だが、そのルークの言葉が周りの味方兵を鼓舞させる。

 今までの繋がりは無くとも、それでも何処か繋がりあう信頼。

 どうやらそんなものも今のこの場にはあるようだった。

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

 

 手加減も躊躇も前回と同様。一切そこに存在はしない。

 全力を持って振るわれる『砲裂剣』が襲い掛かってきた兵の剣を吹き飛ばし、そして薙ぐ。

 

「――魔力は弾丸となる――」

 

 さらに同時、魔力を弾丸へと変換し、間を置かずに全てを放った。

 しかしその銃撃に敵を狙ったという事実は無い。

 ただその弾丸を飛ばせばそれで問題は無いのだから。

 

 今回の戦いは、以前のように広く戦いやすい場所での戦いとは全く違う。

 余計な考えを抱けばそれは死へ直結するし、広い場所だと思いこんで動けば追い詰められてしまう。

 故に考えなければならないのは如何に上手く戦うかだけだ。

 だからルークに向き合う兵達に、以前のような対処能力は無い。

 そしてだからこそ。

 この一撃は、この能力を初見の相手と勝負している時と同様の意味を持つ。

 

「集えッ!」

 

 全六発中五発の弾丸が、最も遠くへと放った一つの弾丸へと向けて高速で集束する。

 そこはまだ味方の誰もが到達していない敵の陣地で、それ故にその攻撃が味方に当たる心配は無い。

 だからこそ躊躇いも無く能力は発動され、五つの弾丸は間に存在する全ての兵を貫きその命を絶った。

 

 一連のその流れは、時間にしてみればまさに一瞬。

 しかし今はその一瞬だけでいい。

 目的はあくまで道を開けることであって、今のルークにはここで留まる理由は存在しないのだから。

 残るエア兵の相手は足止めのために残った部隊に任せ、ルークは城へと向かう本部隊の後を追って走り出した。

 

 

 

 だが、丁度美咲と裏葉が激突したその時。

 走るルークは、その一つの姿を見つけた。

 戦いたくはない。だが戦わねばならないその姿。

 即ち、ノアル=リフェティアの姿を。

 

 足止めのためにその場に留まる部隊に混じり、ルークもその場で足を止めた。

 ノアルがそこでルークに気がつき、向き合い、そして互いに沈黙する。

 だが、ここは以前以上の激戦が巻き起こっている戦場。

 交わす言葉は殆ど無く、

 

「……これで終わらそう、ノアル」

「……そうだね。全部終わらせて、護ろう。互いが互いに護りたいものを」

 

 全てを終わらせるため、ここでも一つの激突が巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 いやー、妙に調子が良くなって一日で仕上げてしまった今回だったのですが、文章とか大丈夫かな?

 まぁ大丈夫なことを祈りますがw

 

 さて、とりあえず最終決戦始まりました。

 これであと残すところ数話。

 ……そう考えると何だか寂しいなぁ。

 というか、自分のHPの小説より執筆が早いって問題でしょうねぇ(ぁ

 ま、いいです。

 

 次回ですが、予想通り、ノアルとの戦いがメインになります。

 そして他に一話程を入れ最終決戦は終わり。

 あとはエピローグに向かってまっしぐら、といった予定です。

 

 ただ、やはりこれで終わってしまうのは個人的にとっても哀しくなってきたので、三大大陸編では失った仲間、という伏線を使って続きを書くのもいいかなぁって思いも消えてませんのであしからず。

 まぁどの道この作品は残すところあと数話ですので、皆さんどうか最後までお付き合いくださいな(ぺこり