戦場へ辿り着いた時、ワンの戦況はあまり良くは無かった。

 陣は乱れ始めて、後退を開始。さらには、逆に攻め込んでいるエア、クラナド両軍の軍勢は平野へと近づき、このままでは包囲されてしまうのも時間の問題だろう、というところ。

 だからそうなる前に辿り着くことができたのは、幸運だったかも知れない。

  

 角笛の低い音が辺り一帯に響き渡った。

 他でもない、カノン軍の兵士が鳴らしたものである。

 そしてその兵の隣。

 既に剣を腰より引き抜いた祐一が、高々と声を張り上げた。

「我こそはカノン国国王、相沢祐一である!」

 巻き起こる、どよめき。

 だがそれを気にする事無く、言葉は紡がれる。

「我等カノン軍、ワン軍を援護するために参上した!!」

 高々と剣を掲げる祐一に、カノン軍の皆が剣を掲げ応えた。

 

 そしてその言葉の、僅か数秒後。

「ここが正念場だッ! 目に物見せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ワン軍より、ワン自治領の王、折原公平の声が上がった。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第九話 ワン攻防戦

 

 

 

 その戦場に在る全ての部隊が、交差する。

 カノン軍は左翼、右翼、中央と複数に分かれ、戦闘を開始していた。

 そしてその中でルークが属したのは、祐一率いる左翼の部隊。

 だが……そこに属したところで、国王と同じだ、などと思う暇は無かった。

 起こった異常は、一つだけ。

 だがそれは、戦況を変えるに相応しい最凶の異常。

 

「■■■■■■■■■■■■■――――――――――ッ!!」 

 その異常は、たった一人の少女が呼び寄せた狂神。バーサーカーだった。

 

 ルークから見ても禍々しい雰囲気を持つその神は、現れると同時、その少女の命令で敵兵を薙ぎ払う。

「……もう、本当に何でもありだね。この国は」

 近くにいた兵に、それがサーヴァントだと聞いて、呟く

 まさか聖杯戦争の関係者までがいるとは思ってもみなかった。

 ……だが。それが味方となれば心強いことこの上ないのもまた事実だ。

 ――こりゃ、負ける気がしないよ

 心の中でもっともな苦笑を浮かべるルークに、だがそんな間を与えないと言うように敵兵が襲い掛かってきた。

 ……エアの――元仲間の兵士が。

「な……貴様っ! 第四部隊にいた……っ!」

 そして剣を交えた時、相手がそれに気がつく。

 それと同時、敵に生まれる僅かな躊躇。

 元々が味方であった者が敵にいる。

 そんな想いが、相手の心を惑わせた。

 

 だが。

 

 しかし、残念ながら決意をしたルークに、躊躇という想いは生まれない。

「ごめんね。僕はもう決めたんだ。エアじゃない、この国で僕は歩んでいくって」

 相手の剣を横へ流し、『砲裂剣』を振り上げた。

 そして、だから、と。

「迷いなんか、しないッ!」

 容赦ない一撃が、振り落とされた。

 

 だが、さすがはエアとクラナド、両軍を合わせただけはある。

 その兵の数は半端ではなく、一人を倒せば次は二人、三人でと、休む暇など無く襲い掛かってくるのだから。

「く……っ!」

 そしてそれは、ルークにとっては――いや、元・エア第四部隊のメンバー全員にとって都合が悪い。

 彼等の本当の力は、その信頼による連携にある。

 それが、この連続した攻撃のせいでできなくなっていたのだ。

 ……いや、違う。

 よくよく見れば、自分達を相手しているのは全てがエア軍の兵士だった。

 つまり。そんな彼等のことを知っているエア軍は、彼等を抑える方法として、自分達が暇なく相手することを考えついたのだろう。

 故に――ルークも例外ではなく、徐々に相手が有利になっていく。

 一人倒すごとに戦う相手が増えていくせいで、既にルークを囲むのは三人のエア兵。

 

 このままでは、負ける。

 

 そしてルークも、自分でそれを悟る。

 もう、全ての手を尽くさねば(、、、、、、、、、、、、、)負ける、と。

「――魔力は弾丸となる――」

 『砲裂剣』に弾丸を装填する。

 だがそれを見るや否や、彼等が一斉に左右へ展開した。

「お前の能力は知っているぞ! 楽に当たると思うなッ!」

 そして、そう叫びまた始まる攻撃。

 だが、今度は先ほどまでとは違う。

 ルークの能力を完全に警戒していた。

 一発、ルークが弾丸を放つが、確かにそれを相手は避けてみせる。

 ……しかし、ルークはそれに、逆に笑みを浮かべた。

「馬鹿だよ、君達は」

 そして呟くようにそんな言葉を吐いた。

「何だと……!?」

 それを、単なる侮蔑と取ったのかルークが何か隠しているのかと疑ったのか、エア兵の声は荒くある。

 まぁどちらにせよ問題は無い。

 前者ならば次の攻撃が当たらないはずはずは無いし、後者だとしても彼等のような単なる一兵に避けられるはずも無いからだ。

 何故ならばそれは、ルーク自身、通常よりも魔力の消費が非常に多いために滅多に使わない攻撃。

 それどころか、ルークは元・第四部隊のメンバーとの模擬戦の時以外、それを使ったことが無いものだった。

 だからその攻撃を彼等が見たことなど、一度とて無いのだ。

 

「『迅雷球(サンダー・ボール)』」

 

 だが、ルークが生み出したのはただの雷の下級魔術。それも、一つだけ

 そこには何の魔力的仕掛けも何も、完全に存在してはいなかった。

 だから、それに先ほどの言葉がハッタリなのだと、エア兵は結論を出した。

 そしてその内一人が、今の隙にルークを討たんと踏み込み、剣を振り上げる。

 

 そしてそれが振り落とされようとする、刹那。

 ルークの能力が、発動する。

 

光速の雷弾(レールガン)!」

 

 轟っ! と、それは上級魔術でもまずありえないような轟音が、響き渡った。

 雷の下級魔術に過ぎないそれは、だが如何なる魔術をも凌ぐ、まさに光速の速度でその兵を打ち貫いていた。

「馬鹿……な……っ」

 たかが下級魔術。

 そう思っていた。

 それなのに、何だ。今のは。

 兵の思考は、薄れ行く意識の中それだけに染まる。

「これが、僕の本当の能力の使い方だよ」

 ふぅ、とやっと息をついたルークは、そこでそう告げる。

 

 そう。ルークがやったことは単純だ。

 能力により、メインの点を先程放った弾丸に。

 そして、サブの点を自身の魔術に設定したのだ。

 

 それが、この能力の、別の制約。

 

 自身が直接、もしくは間接的に触れているか、自身の魔力によって操作・構成した物にしか点の設定はできない。

 

 だからルークは自分の魔術に点を設定することができたのだ。

 

 そこまで分かればもう答えは出すまでも無いだろう。

 ルークはその魔術を、メインの点を設定した弾丸まで一気に引き寄せたのだ。

 引き寄せる速度は込める魔力量に影響するのだが、もともとルークの持つ属性は、魔術の中でももっとも速度がある雷。

 もっと別の物ならばともかく、もとからの速度に多少速度を足してやればあの速度になるため、そこまでの魔力は必要無い。

 ……まぁ、それは所詮ルークの考えで、実際には下級魔術に使う魔力と能力に使う魔力を合わせているために中級魔術程度の魔力を消費している。

 ただの直線運動だけの魔術としてみれば、かなり魔力効率は悪いのである。 

 

「さて……僕を殺したいんじゃなかったのかな?」

 にっと口許を持ち上げ、告げる。

 だが相手は、先ほどの『光速の雷弾』を見たばかりだ。

 もちろん、彼等がそれには多くの魔力を必要とするために多用は出来ないことなど知るはずは無い。

 だからそれは、そう。

 ワンがカノンがここへ到着する前にやったことと同じだ。

 相手に警戒心を与え、こちらへの攻撃を躊躇させる。

 規模は違うにしても相手が三人ならば充分通用するはずだ。

 

 いや、通用していた。

 

 実際に相手の兵達は、またあの一撃を恐れてこちらへの攻撃を行わず、距離を取っていた。

 さらには、周りでそれを見ていた兵もいたのか、ルークとの戦闘に兵が増えることも無い。

 ……だが、彼等は忘れている。

 もしくは既にそこまで思考が働かなかったというべきか。

 ルークが持つ武器は、近距離から中距離戦闘までこなす、銃剣であることを。

 カチリとトリガーを上げ、『砲裂剣』をその一人へと向ける。

 そこでやっとそのことを思い出した彼等は、横へ展開しようとするが――。

「遅いっ!」

 その一人の足元へ目掛け、弾丸が放たれた。

「ぐぅっ……!」

 ぐらりとその足元を撃たれた兵が揺らぎ、だが辛うじて堪える。

 

 だが、その次の反応には間に合わない。

「ふっ!」

 銀閃が煌く。

 一瞬で距離を詰めたルークの『砲裂剣』が、兵を切り裂いた。

 

 が、そこでさすがに状況の悪さに気付いたのだろう。

 今までルークの攻撃を恐れ、攻撃に参加しなかった兵が再びルークへと剣を向ける。

 これで、四人。

 

 一対四となれば、さすがに都合が悪かった。

 美凪の元で鍛えられたルークは、全力を出せば確かに並の兵一人二人では抑えることなど出来ないだろう。

 だが、それが四人となれば話は別だ。

 ルークが全力を持ってもまともに戦えるのは三人程度が限度。

 四人相手は既にその域を出ていた。

 だが一つだけを言えば、今だ彼等がルークの攻撃を恐れ、攻撃を開始していないのが救いだろう。

 ――……少し、無茶するかな

 ならば今の段階で状況を打開しなければ、と結論を出したルークは、仕方無しにそうさらに結論を出す。

 

 そして、再度無詠唱による魔術を放った。

「『迅雷球(サンダー・ボール)』!」

 再び生み出される雷球。

 だが今度は、その数は三。

 

 しかし、それを見た相手は、内心で首を傾げた。

 三つを全て飛ばすにしても、それでは一つ足りない。

 しかもそれを引き寄せる点だって足りないはずなのだ。

 ならばルークはそれで何をする気なのか。

 

 そう考えた、その時。ルークが動いた。

 

 二つを残し、一つを何も無い(、、、、)正面に放つ。

 そしてそれには、当然相手が首を傾げる。

 一体何を、と。

 

 だが、それでいい。

 今だ自分の思惑に気付かない相手を見て、ルークは笑みを浮かべた。

 これに気づかないようならば、避けることは絶対不可能なのだから。

 

光速の双雷弾(ツイン・レールガン)!」

 

 能力が発動し、正面に放たれた雷球へ目掛け、もう二つの雷球が光速で集ったのだ。

 そしてそれは――結局その思惑に気づくことなかった二人を、一気に貫いた。

 

 確かにこの能力で生まれる攻撃は、全てが直線だ。

 だが、それだって見切ることができなければ、予測することが出来なければ避けることが出来るはずは無い。

 そしてさらに――。

「はぁぁっ!」

 それに驚き止まってしまうようでは、その後の攻撃に対応できるはずも無いだろう。

 

 故に踏み込んだルークの体は、既に残る二人の間へとあっさりと入る。

 そして一閃。

 一人を倒し、その動作の途中にハンマーを上げ、そして振りぬいたところでトリガーを引く。

 それは寸分狂わずもう一人の体を捕らえ、命を断った。

 

 ふぅ……と、再びルークは息を吐く。

 これだけやれば、また自分に敵が来るのは少し遅くなるだろう。

 だがそれは嬉しいこと。

 実際、今の状況で今度は五人にでも来られては洒落にならないのだ。

 無理な魔力行使――中級魔術を無詠唱で連続で放ったに等しいこの行為は、体にかなりの負担が掛かる。

 だからそんな状況で五人も相手にしろといわれても、絶対に勝ち目は無い。

 

 だが、そんな状況で。

 

「ごめん皆。少し下がっててもらえないかな」

 一人、ルークの前に出てきた神族の少女がいた。

 

「……どういうことだ?」

 少女が放った言葉に、ルークを相手にしようとしていた兵達が顔を歪ませる。

「私、この子と結構まともに戦えると思うから。兵を減らすより、そっちの方がいいでしょ?」

「まともに、だと?」

「戦い方を知ってるんだよ。だから、お願い」

 最後には、そう頼むような言葉。

 何故少女がそんな言葉を放ったのかは分からないが、だが他の兵達はそれに顔を見合わせる。

 そして、

「……しくじるなよ」

「分かってるよ」

 そう言って、少女を残し兵達は別の相手へと向かった。

 

「さて」

 そして少女は、再びルークを見る。

 

 そして告げた。

「久しぶりだね、ルーク」

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 さてさて今回は完全に戦闘シーンがメインです。

 で、ルークの実力もこれで明らかになりました。

 あの技をずっと出してみたかったんですが、いやー。やっと悲願達成です。

 あ、ちなみに。

 勘違いされるとアレなので言っておきますが、あれは某電撃文庫小説に出てくる某ビリビリ中学生から盗んだ物ではありませんのであしからず。

 

 さて、それで前回言っていた重要人物ですが、当然最後に出てきたあの少女です。

 なぜ彼女がルークを知っていて、何故ここにいるのか。

 まぁそれはある程度予想が付くとは思いますが、詳しくは次回に回しています。

 ですので詳細はもう少しお待ちになってください。

 

 でわ、また。