『絶好調〜!』

 屋上にて昼寝をしていたルークは、そのミチルの声で目が覚めた。

「……ミチル?」

 そこまで眠りが深かったわけではない。

 なのでルークは寝ぼけることなどは無く目を覚ますと、その声が聞こえた方向――即ち真下の、ミチルが世話になっているはずの医務室がある方向へと視線を向けた。

「もう落ち着いたのかな」

 ふと口にしてみて、いや。と苦笑。

 ――落ち着いてなきゃあんなことは言えないか

 ほんの三日程前に目を覚ました時の状態からはどうなるかと心配もあったのだが、どうやらそれも杞憂に終わりそうでホッとした。

 美凪ほどではないかもしれない。

 だが、彼女とて彼等の仲間であることに違いは無いのだ。

 安心しない方がおかしいというもの。

 

 が、まだお見舞いに行こうとルークは思わなかった。

 白状とは思う無かれ。

 それどころか、ルークは気を利かせているのだ。

 どうせミチルのお見舞いに行き、あの声を一番間近で聞いている人物がいるであろうことをルークは知っているのだから。

 自分は、また落ち着いた時にすればいいだろう。

 そう結論を出すとルークは立ち上がった。

 昼寝も、起こされた以上はする気がもう出ない。

 ならば何処か散歩でもしよう。そう思い至ったのだ。

 それにあのままあそこにいて、もし美凪達を邪魔してしまっても悪いだろう。

 

 ぐっと一度伸びをすると、ルークは外へと向かった。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第八話 開戦の時

 

 

 

 が、同じ釜の飯を食ってきた仲間達。

 どうやら同じことを考える奴はいたらしく――。

 

「何だ。ルークもか……」

 

 ばったりと、三人で歩いていた元・エア第四部隊のメンバーと出くわした。

「『も』ってことは……皆もかぁ」

「つか、俺に至っては大部屋だからなぁ。ミチルと同じ部屋なんだぜ? そりゃ出たくもなるって。……しかも、何があったのか隊長は国王と一緒だったし」

「は……? 相沢王も?」

「そうだよ。ありゃびびったぜ? 仕切りのカーテン開けたらご対面だ」

「うっわぁ……朝からあんた、心臓に悪い出来事に出遭ったのねぇ……」

 はぁ、と盛大にため息を吐くそのメンバーの一人である少年。

 まぁそれは確かに頷ける。

 ルークだって、もし目が覚めてすぐにそんなことがあれば仰天すること間違い無しだ。

「それはいいとしてさ。皆はこれからどうするつもり?」

 まぁとりあえずは本題だ、と。ルークは突然の話題変換。

「おま……他人事みたいに」

「いやごめん。他人事」

 いや仲間なのだが、でも、そこまで重い出来事でも無いので気にしない。

「な――っ! お前それが仲間に言う台詞か!?」

「私達は、喫茶店にでも行って話そうかってことにしてたんだ」

「無視ーっ!?」

「あー、なるほどね。じゃあ僕も一緒していいかな?」

「もちろんオーケーって何あんた項垂れてるのよ」

「……モウイイデス」

 口論するだけ無駄と悟ったのだろう。

 

 とりあえず。

 何故だかとことん弄られキャラに変貌してしまった彼に合掌。

 

 

 

「へぇ……。こんな店まであるんだ」

 案内された――というか、話している間に着いた――その喫茶店に入り、ルークは感慨の呟きを漏らした。

 喫茶店、というだけならば、当然エアにも幾つもあった。

 だが……ここまで綺麗に装飾され、尚且つ人の溢れている喫茶店は間違い無くエアには無かったはずだ。

 そう――全種族共存だからこそ出来るような、全ての種族に好まれる様な、そんな内装。

 そして故に様々な種族の人々が集い、それが結果的にこの人の多さとなっているのだろう。

 

 全種族共存という目標はこんな小さな所までにも影響を及ぼしているようだった。

 それを改めて実感する――間も無く。

「前に散歩してたら偶然見つけたんだー」

「嘘つけお前。栞ちゃんに聞いたって堂々と言ってたじゃないか」

「あ! あんたそういうことは隠しておいてよ! 私の建前のために!」

「うるせぇ。さっきの仕返しだ! つか俺がお膳立てする義理ねぇだろ!?」

「二人ともうるさいよーっ!」

 ギャーギャーと入店するや否や騒がしくなる彼等。

 

 はぁ、とその三人とは対照的にため息を吐くルークと、案内すべくやって来たのか、非常に戸惑ってしまうウェイトレス。

「席、空いてます?」

 これではあまりにそのウェイトレスが可哀想なので、ルークはそう言って救いの手を述べる。

 その意を読み取ったであろうウェイトレスは、表情を困惑から苦笑の表情へと。

「あ……はい。こちらにどうぞ」

 そして、職務を果たすべく彼等を席へと案内した。

 

 

 

「あー、そうそう」

 と、皆が頼んだ料理がテーブルに並んだところで、不意に一人が口を開いた。

「そういえば私達の部隊の配属、決まったって皆知ってる?」

「は? 決まったって……いつだよ?」

 その唐突な切り出しに全員が手を止め、その切り出した少女の顔を見る。

 つまりは皆知らないんだ、と少女は苦笑を返し、だがすぐに口を開くと話を続けた。

「やっぱり隊長とは違う部隊になっちゃったみたいなんだよねぇ……。何でも、隊長は自分の部隊を持つんだってさー」

「あー、やっぱりかぁ」

 と、それは予想していたかのようにルーク。

 いや、実際には確かに予想していた。

 美凪の戦力は高いし、ならば部隊の構成の際に引き抜かれ、そういう立場に置かれるであろうことの予想は簡単だったのだ。

「となれば、俺達はどうなるんだ? 隊長も抜けたんだし、このままってことはないだろ」

「でも、もしかしたら別の隊長が来るってこともあるよね? 今の部隊なら、統率力だけはどこにも負けないし」

「あーそれはないと思うよ? だって、隊長がいて初めて僕達の部隊なんだし、別の隊長にそう上手く従えるなんて誰も思ってないんじゃないかなぁ」

「となれば……やっぱりバラバラに別の部隊に配属されるのがセオリーかぁ」

「……あのー、私がその答え知ってるんだけど、何で誰も訊いてくれないのかな?」

 と、さすがにそろそろ放置されるのが嫌になってきたのだろう。

 少女がやっと、そう口を開いた。

 しかし皆、本当にその事実を忘れていたようで、あぁそういえば、と言った表情でその少女を見て、再び苦笑を誘う。

「えっとね、とりあえずここにいるだけのメンバーだと……あー、確かルークだけが別の部隊だったかな」

「え、僕だけ?」

 と、その予想外の答えにルーク狼狽。

 その様子に皆が苦笑を浮かべるが、どうやら事実のようで、

「間違いないよ。これでも私、記憶力はいいんだし」

「……切ないなぁ」

「でも他の奴だって多分同じ部隊に入った奴はいるだろ。落ち込むなって」

「そうだよー。完全にばらばらになったわけじゃないんだし、ほら。ルークが自分で言ったんだよ? 絆は持ち続けようって。だから、離れても皆は一緒だよ」

 まぁ、皆の言っていることはもっともである。

 そして、やがてルークも頷きを返し、

「だね。落ち込んでても仕方ないか」

 そう笑顔を浮かべた、

 

「んじゃぁ飯も来てることだし、冷める前に食っちまおうぜ」

「そうだね――ってあ、ウェイトレスさーん。追加注文お願いしまーす」

「え、まだ食べる気?」

「当ったり前。これぐらいで私の腹が満たされるわけは無いんだよ」

「……この間痩せたいって言ってた気がすいひゃいいひゃい!」

「んー? そういうことは女と女の秘密だって知ってる?」

 うにー、ともう一人の少女の頬を引っ張りながら小悪魔の笑みを浮かべる。

「……そういやぁお前少し太ぐふっ!?」

「無駄なことは言わない方が身のためだよー」

 見事なボディーブローが、テーブル越しだというのに直撃していた。

 

 少女の声を受け、注文を取りに来たウェイトレスがすっごい戸惑っていることに気付きもせずに。

 

 

 

「あー、食べたなぁ」

 にこにこと満面の笑みで言うのは、当然あの大食い少女――もとい、追加注文をした少女。

「……太るっていうのも分かった気がするよ」

「何か言った?」

「何でもないです」

 地獄耳の能力でも持っているのか、この少女。

 ほんの僅かな声量の呟きをどうして聞き取れるのだろう。

「そういや、そろそろ診療所に戻ってもいいかな」

「うん。そろそろ隊長達も帰ったんじゃないかな?」

 と、そんな何気ない会話なのだが、彼等は気付いているのだろうか。

 既に帰る場所は診療所であると思うほどに、あそこの生活も好きになっていることに。

 

 ……彼等、一体家とかどうするのだろうか。

 閑話休題。

 

 まぁともかく、そんな感じで診療所へと帰った彼等なのだが……その彼等が診療所に入ったとき、何故か待合室は騒がしかった。

「あ、皆さん」

 そしてその中、栞がこちらの姿を認め小走りで駆け寄ってくる。

 とても、焦った表情で。

「栞さん。何かあったの?」

 そうルークが尋ねるが、栞からの返答は無い。

 だがその代わりに、

「今すぐに城に向かってください。全軍召集するようにと、命令が下りました」

 今までに無い真剣な表情でそう告げた。

 

 

 

「手短に説明しよう」

 召集された軍の先頭。そこに立ち、相沢祐一はそう口を開いた。

「先ほど、エア、クラナド全軍がワン自治領へ向けて進軍を開始した」

 

「――っ!」

 その言葉に、ここへ辿り着いたばかりのルーク達は驚愕した。

 聞き間違いではない、確かなその言葉。

「ワンを……?」

 戸惑いを隠せない――否、隠す余裕すらも無い、そんな言葉を少年が呟く。

「……大体考えは分かるよ。ワンを潰して、カノンをキー大陸で孤立させる気なんだ。それと、食料とかの輸入を遮断する――つまり、ライフラインを潰す目的も、あるんだと思う」

「そんな……そんなことをされたら、この国は……っ」

「……長くは、持たないだろうね」

 呟くように告げたルークの言葉。

 それに、誰もが言葉を失った。

 

 

 

「さて」

 事実を全て伝え終えた後、どういうわけか祐一は元・エア第四部隊のメンバーを集めた。

「話したいことは多々あるが、今はそれどころではないからな。それは今度にして、だ。

 今回のことだが、お前達には選択をしてもらおうと思っている」

「……選択って……。何をですか?」

「我々について、エア、クラナド両軍と戦うか、ここへ残るかのどちらかだ」

 祐一がそう告げた途端、彼等は一斉に顔を見合わせた。

 

 無理も無いだろう、と祐一は思う。

 これから戦うであろう相手は、彼等がいた国や友好関係にあった国の軍だ。

 戦いづらいのは、当たり前のことだ。

 だから祐一は、この問いを持ちかけた。

 それと……美凪に言われた言葉も考慮して。

 だから彼等が望めば、ここへ残す気だった。

 ……だが、彼等の想いは、そんな祐一の思惑をあっさりと裏切る。

 

「相沢王。一つ、言わせて頂いていいでしょうか?」

 メンバーの一人が、苦笑交じりにそう口を開いた。

「なんだ?」

「我々はもうこの国の住民で、この国のために戦うことを決意した身です。ですから、もう我々はこの国に仕える兵です。

 ……兵に、そんなお気遣いは無用でしょう?」

 最後には笑顔を浮かべていったその言葉が、周りにいた他のメンバーの頷きと笑みを誘う。

 そして、祐一までをも苦笑させた。

「そうか。ならば俺からは言うことはもう無い。各自、全力を尽くしてくれ」

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 さてさて始まりましたよワン攻防戦。

 戦闘シーンは次回か、下手すれば次々回になりますが、お楽しみにしていてください。

 で、少しネタバレですが、その時に話の方針がある程度わかると思います。

 ちょいと、重要人物が出てきますので。

 

 で、祐一を始めて書いてみましたが……非常に短いので違和感はあるか無いか分かりませんね。

 まぁ私が書けば所詮こんなもんでしょうが(ぁ

 

 ……しっかし、何でこう、長くならないんだろうか。

 一つ一つの文章が短い物で、話の展開が非常に早く思えてしまってならない……。

 こういうのもやっぱり文才なのかなぁ……

 まぁ地道に頑張ります。

 

 でわー。