祐一達が帰還した。
その知らせを再度栞から念話で聞き、城への報告を済ませその帰路についていたルークを始めとした数人のメンバーは踵を返した。
が、その目的は美凪の安否の確認ではない。
いや……正確には、確認などする必要もないので、それは目的には入らない。
彼等の誰もが、美凪はクラナドであろうが何処であろうが通用する腕を持っていることを知ってる。
故に心配などは無用。仮に心配をするとすれば、それは彼女が逆にこちらのことを気にしてしまい、隙を生み出してしまうようなことだろう。
だが、今ではその心配も無い。
カノンに入り、美凪は彼等が安全であるということを知っているのだから。
まぁ、賊が入ってきたりはしたのだけど。
なので、彼等の目的と言えば、それは一つだった。
そう。栞からその連絡と共に言付かった、もう一つの事実を告げるため。
神魔戦記三次創作『永久の未来へ』
第七話 久方ぶりの語らいを
「……ミチルが目を覚ました……?」
その知らせに、美凪は目を振るわせた。
「はい。たった今、栞さんから連絡が。……ただ、今は精神状況が落ち着いていないらしく、面会は出来ないそうですけれど」
そう。それこそが栞からの知らせだった。
今まで眠りに付いていたミチルが、目を覚ましたというのだ。
体に異常は無し、健康状態も良しという、最高のコンディションで。
だが……それは美凪にも言ったように、問題はその精神状況にあった。
目を覚ました直後で、意識がはっきりとしていないかららしい。
あの……エアでの出来事をフラッシュバックしてしまっているらしいのだ。
故に今は、栞が鎮静剤を打って落ち着かせてくれてはいるらしいのだが、やはり面会は出来ない、ということだった。
「そう……。けれど、それだけでも良かった……。教えてくれてありがとうございます、皆」
その事実を、おそらく悟っただろう。
だがそれでも美凪は笑みを浮かべた。
何よりも、ミチルが目を覚ましたことが嬉しかったのだろう。
だから多分、それは美凪の心からの笑みだ。
「言いたかったことはそれだけです。それと、美凪隊長。クラナドへの潜入、お疲れ様」
そうメンバーの一人が告げて、そこからは皆が口々に同じ言葉――美凪を労わり、賞賛する言葉を発した。
さて、そんな様々なことのあった夜。彼等が何をしていたかといえば、
「やっぱりこの大きさの部屋だと、こんな人数もあっさり入るね」
そうルークが苦笑気味に言う。
この診療所内に存在する元・大広間。現在診療所内仮孤児院となっている部屋に、元・エア第四部隊のメンバーが勢ぞろいしていた。
あぁもちろん、迷惑にならないよう栞の許可も得て。
本来の目的はよく分からないが、それでもある程度の騒がしさは予測して造られたのであろう元・大広間。
こうやって集まるには充分だった。
そして同時に、先ほどのルークの呟きも然り。
「初めから大人数がはいるための部屋ですからね。これぐらいの大きさは確保されてるんだと思いますよ、きっと」
というわけである。
さて、何故彼等がこんな場所に集まっているかといえば、理由は簡単だった。
「まぁ、ちゃっちゃと始めようぜ。堅苦しいことも無しだ」
そう告げられた言葉に誰もが頷き、床に座るそれぞれが前に置かれた、飲み物の入ったコップへと手を伸ばし、それを天井へと掲げた。
「カノン軍として初の勝利を祝って、乾杯っ!」
宴の、始まりだった。
本当ならミチルや美凪などもここへ呼びたかったのだが、さすがにそれは無理だろうと集まれる彼等だけで集まったのだ。
で、それならば、と。本当ならば全員の目覚めを祝うためのものだったのを急遽、勝利祝いとして、今に至る。
そしてそれを栞に話したところ、快くこの部屋を貸してくれたのだ。
『それでしたら、ここの孤児院の部屋を使ってください。こんな時間ですから、誰もいませんし』
むしろ、そんなことを告げ、医療関係においては頑固である彼女も実は心の広い少女であることを再認識させられたぐらいだ。
まぁそれはともかく、そんな経緯で彼等はここへ集合したのだった。
しかし。
「まぁ、栞ちゃんには悪いけど早速……っと」
メンバーの一人が後ろから取り出したるは、数本の瓶。
誰もが誰も、それを一目見てその中身を悟った。
「……え、飲むの?」
と、そう訊いたのはルークだ。
それは酒だった。
しかも、その酒をルークは知っている。
以前エアにいたとき、第四部隊のメンバーで似たような宴を開くことがあったのだが、その時に出てきたのも、確かこの酒だった。
だがこの酒は……。
……恐ろしく、度数が高いのだ。
「当たり前だろ? 宴といえば騒ぎ。騒ぎといえば酒だろ」
……その式はなんか間違ってる。
しかも、それをあの栞が許すとでも思っているのだろうか。
答えは否。
彼女が、病み上がりで、しかも病院内で飲酒など許すはずは無い。
だがしかし、彼等は凄かった。
「バレなきゃ問題無いんだよ」
お世話になったはずの栞に対し、そんなことを言い放ってみせたのだから。
しかし、それ以上は誰も反論を見せない。
止められないと悟ったからではない。
実はここにいる全員、飲酒の経験持ちなのである。
先ほども言ったように、エアにいた頃に開かれた宴。
それは、誰か新しい者が部隊に入ったときに開かれるものなのだ。
そして当然それに出席した者は、酒を飲まされる羽目となる。
故に、ここにいる全員はその酒の経験があった。
なので先ほどの誰かの言葉も、表面上だけでの抵抗、と思ったほうがいいだろう。
まぁとにかく。
そんな感じに、宴には酒というスペシャルゲストが招かれることになった。
「……いつも思うけど、きついよね。やっぱりこれ」
とか言いながらも一気飲みをして見せたルークは、空になったコップを見つめながら言う。
度数が高い、というのは先ほどにも言ったことだろう。
そしてそれは、水割りにしたとしてもあまり変わらない。
喉が焼けるようなこの感覚は未だに慣れないのだ。
まぁそれでも、酒の味とは覚えてしまえば厄介な物。
アルコール中毒というほどではないにしろ、どちらかと言えば酒は好きな部類に入るルークであった。
「一気飲みする奴が言う台詞じゃないよ、それ。もう一杯いる?」
と、隣に座っていた女性が、そう酒を勧めてくる。
「いや……連続はきついから、今はいいよ。……もう少し後で貰うけど」
そう言うと、ルークはふと周りを見回す。
まだ宴が始まって二十分ほど。
幸い、自分が見た中に酔っている者はいなさそうだった。
それを確認し、ルークは口を開く。
「こうやって集まるのも……もう一ヶ月振りぐらいかな」
意識しての大きめの声。
その言葉に、今まで雑談をしていた者。酔おうと酒を煽っていた者。
思い思いの行動をしていた誰もが、ルークを振り返る。
「皆に、改めて話しておきたいことがあるんだ」
久方ぶりに集まったこのメンバー。
全員に伝えておきたいからこそ、ルークはこの場でそれを言うことを選んだのだ。
「僕達はもう、エア第四部隊のメンバーじゃない。ここカノンの軍に所属する、まだ所属部隊すら決まってない兵士だ。
だから、もし僕達の所属部隊がばらばらになれば、こうやって集まれることも難しくなるかもしれない。だから、僕は今これを言いたいんだ」
誰もが、そのルークの言葉に耳を傾けていた。
「僕は隊長に、何処までも着いていくと言った。そして隊長も、僕達には何処までも着いてきてくれと言った。
でもそんなこと、実際にはできるかが怪しい。それは隊長だって分かってると思う。……まぁ、これは僕だけが話したことだけど、皆想いは同じだよね?」
それだけは確信を持てた。
自分のあの時の言葉はきっと、誰も同じなのだ。
その証拠に、ほら。皆が苦笑を浮かべる。
それを見、ルークはまた口を開く。
「だから、せめて僕達の絆だけは、永遠に。決して途切れる事無く未来まで持ち続けたい。いつまでも続く、永久のものでありたい。そう思う。
……だからさ、皆で誓わないかな。何時、何処で、何があろうと、その絆だけは絶対に持ちつづけようって」
最後には小さく笑みを浮かべ、ルークはそれを言い切った。
そして訪れる、しばらくの沈黙。
だがそれもすぐに壊れる。
誰かが、小さく笑いを漏らした。
「何か……クサイ台詞だな」
そして、そう苦笑混じりの声。
まぁそれはそうだろう。
いや、誰もがそう思っているだろう。
だが。
「まぁ、悪くはねぇ」
「うん、同感だ」
「私も。いいと思う」
誰も、それを否定はしなかった。
誰もがそれを受け入れた。
そして誰もがそれを、己の胸に誓っていた。
そして再び起こる、盛大な笑い声。
再び場は一つとなっていた。
「にしてもルークさん、少し酔ってますよね? 今の台詞は絶対に」
と、ふとそんな言葉を後ろより掛けられ、ルークは振り返らずに苦笑して答えた。
「当たり前。素であんな恥ずかしい台詞、言えないよ」
もちろん今でも意識はしっかりしているが、それでも多少の気分の違いというものだ。
酒の力に頼った発言だった。それは自負している。
「ですね。私がいつも話すルークさんは、あそこまで恥ずかしいことは言えませんから」
「まあ、それもそうかも……ね?」
あれ? とルークは首を傾げる。
何だか、会話が少しおかしくないか?
そもそも自分を『ルークさん』と呼ぶ者が、このメンバーの中にいただろうか。
……否。いない。
いくら記憶を掘り起こしても、そんな人物は一人もいなかった。
……ならば、自分が話しているのは誰だ?
急に、背筋が凍りそうになる。
嫌な予感がしたのだ。
それを確認せねば、だが怖い。
そんな思考が頭を駆け巡る。
なんだか、とてつもなくアレな予感がするのだ。
そして、躊躇うこと五秒。
すっかりほろ酔いも覚めたルークは、息を呑み後ろを振り返った。
「どーも騒がしいと思ったらこーゆーことだったんですねー? 皆さん?」
そこに、笑顔の鬼神がいた。
「これはこれは珍しー場面に遭遇したものですよ」
台詞が棒読みである。
「とりあえず、どうしましょー?」
小首を傾げる動作が、今は小悪魔の動きに見える。
「まー、診療所を経営する私の権限ということで――」
その顔が、どんどんいい笑顔と化していく。
「とりあえず、一人ずつそこに直ってくださいえぇ今すぐに」
そして、皆が死刑待ちの死刑囚みたいな表情になっていた。
あとがき
どうも、昴 遼です。
うーん、またもほんのりほのぼの風味でお届け。
神魔の世界観が段々変わっていくようで変な気分ですね。
まぁそれはともかく(ぁ
ミチルをこの段階で目を覚まさせてみましたが、大丈夫かな?
というかフラッシュバックって……無理があるかなぁ、やっぱり。
まぁ、気にしないでください(ぁ
さてさて、今回は元・エア第四部隊の皆の語らいを書いてみました。
始めは酒場でもいいかなぁ、と思っていたんですが、最後のオチを書きたくてどうしてもw
まぁ結果はアレですが、楽しめればいいと思いますが。
で、主人公ということでとりあえずルークを目立たせました。
何だか恥ずかしい台詞も言っていましたが、そこは酒のせいです。素じゃないですよ?
……というか、神魔の中に未成年の飲酒の規定ってあるのかなぁ、なんて書きながら思っていました。
ある……のかなぁ。よく分からんです。
ま、いいです(ぇ
さて次回予告ですが、時間軸が数日ほどぶっ飛びます。
そして、早いですがワン攻防戦に突入しますよ(ぇ
展開が早い!? とかお思いの方もいるとは思いますが、仕様です。
というか、日常ばかり書いていると、なんだか神魔のイメージが崩れていく気もしましたので、その対策も兼ねているんですねっていうかもう栞が凄いですし。
まぁ、いつかキー学の三次を書くことがあれば、そっちに力を注ぎたいと思いますので。
では、また次回お会いしましょう。