初めに辺りに響いたのは、爆発音。そして、それにより王都に張り巡らされた結界が揺らぐ轟音だった。

 ルークは知らないものの、不意な王都への攻撃などを予想して張り巡らされた結界は、かなりの強度を誇る物だ。

 それを、破壊とは行かずもここまで揺るがす一撃となれば……それは、

「上級魔術……? それも、外から?」

 不測の事態にはある程度慣れているのだろう。

 いや、結界が破壊されなかったからこその安心感が、この冷静さを保たせているのか。

 どの道それはルークには分からない。

 

 今分かるのは、ただ一つ。

 

「賊……だよね。このタイミングとなると。……なんて情報の周りが早い」

 呟いて、舌打ちをする。

 祐一達がクラナドへ向かい、まだ一時間程度だ。

 そんな短期間にこちらの情報を掴むとは、気配探知系の能力者と……それと、この距離を詰められる、何らかの能力所持者でもいるのかもしれない。

「栞さん。相手の人数、分かるかな」

「私は何とも……気配探知はあまり……。でも、マリーシアなら分かると思いますけれど……」

 が、生憎そのマリーシアは、今は城にいる。

 連絡水晶を用いたとしても、おそらくは今は遊撃部隊の誰かにマリーシアも連絡を行っていることだろう。

 となればこちらから連絡が取れるかは分からない。

「……念のため僕も出るよ。万が一ってこともあるし。それと多分、他の皆もすぐに出てくると思う」

 まぁ、僅か六人で構成されるぐらいの遊撃部隊だ。

 少数精鋭であることは明白なので、この状況でどうなるとは思わないが、それでも万が一ということもある。

「あ、はい。分かりました――っと、その前にルークさん。勘違いの無いよう、鎧はちゃんと着ていってくださいね」

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第六話 信頼の絆

 

 

 

 そこまで酷いものではないものの、多少なりとも混乱する住民達の間を抜け、ルークは爆発のあった門の方向へと走る。

 幸い、その門は診療所からは遠くない方だ。

 走ればそこまで時間は掛かりはしない。

 

 そして、僅か二分程度でルークは戦場と化した門へと到着した。

「うわ……」

 だがその光景に、ルークは別の意味で声を漏らす。

 

 多いのだ。

 とにかく、その賊と思われる者達の人数が。

 一体、どこからどう掻き集めてきたのか。そう思えるぐらいに。

 ざっと見だけでも、そう。二百人近いだろうか。

 

 それを視界に収めながら、ルークは周りを見る。

 だが見えるのは、カノン兵達だけ。

 遊撃部隊と思われる影は見当たらなかった。

 と、なれば。

 ――到着するまで、耐えるまで

 そう結論を出し、ルークは背中に手を回した。

 

 収納率を多少上げる呪いを刻んだ服。

 それは何も、翼をしまうためだけの物ではない。

 故にそこから取り出したるは、ルーク自らの得物。

 銃と剣を足して二で割ったかのようなそれは、俗に銃剣と呼ばれる類の武器である。

 言葉通り、銃ともなり剣ともなりうる武器だ。

 まぁもっとも、そんな形状にすれば多少の無理も生じてしまうわけで、弾丸も飛距離は大した物ではないのだが。

 

 ともかく、今はそれは割愛。それを構え、ルークは地を蹴る。

 そして、戦線に立っていたカノン兵の隣に並び、賊の一人と剣を交えた。

「遊撃部隊の到着まで援護します。戦況を詳しく教えてください」

 そしてその状態で、隣にいた兵へとそう問い掛けた。

「あ、あぁ。すまない。助かる」

 そして、その兵は今まで交えていた剣を引くと、ルークの後ろに付いて現状の説明を始める。

 

 その話によると、現状はこういうことらしい。

 

 先ほど見えたあの爆発は、やはり上位魔術によるもの。

 だがその意味合いは結界を完全に破壊するためではなく、ほんの僅かな侵入経路をつくり、門番をどかすためのものだったらしい。

 そして賊の予想通り、門番はその一撃で大した傷を負わなかったものの、その一瞬に賊の侵入を許してしまったのだ。

 そして、今に至る。

 

「ありがちな手段ですね……」

 侵入の際に門から入るのならば、まずは門番をどかすのがセオリーだ。

 そして今回の場合、それが成功してしまったということになる。

「不意打ちな上に数も多い……今は、こちらの方が不利なんだ」

 そう兵が舌打ちすると、だがルークは軽く笑みを浮かべた。

 

「数なら――問題はありませんよ」

 

 そう言って、軽く視線を後ろへ向けた。

 その視線の先。

 

 元・エア第四部隊のメンバーが、それぞれの得物を構えこちらへと駆けてくるのが見えた。

 

「というわけです。遊撃部隊が来るまで、耐えましょう」

 言うと同時、今まで交えていた剣を強く押し込み、一瞬だけ怯んだ賊に向かって一閃した。

 

 

 

 これで、数も五分五分。

 元・エア第四部隊も交え、戦況は、不意打ちというハンデがあったにも関わらず互角だった。

 

「この……魔族如きに肩入れをする奴等がっ!」

 剣を交えていた賊が、そう恨めしげにこちらを見てそう吐き捨てる。

「……肩入れをしているんじゃない、僕等は――この国は、共に助け合って生きているんだ!」

 気合一閃。

 押し合いになっていた二人のうち、賊の方がゆらりと後ろへ体のバランスを崩す。

 それを、見逃しはしない。

「――魔力は弾丸となる――」

 瞬間、唱えられる呪い。

 それは、その銃剣――呪具『砲裂剣』に刻まれているもの。

 その呪具の効果は、己の魔力を弾丸と化し、銃剣に直接装填する。

 

 つまり。

 

 それは、弾丸の装填という銃において最大の欠点を、完全に切り捨てることが出来る。

 

 故に――魔力が弾丸と化し、装填され、ルークの指が動くまで。僅か半秒。

 そんな間に、そこまで戦闘能力が高くない者が体勢を立て直せるはずも無い。

 放たれた弾丸は、その銃口の先にいた賊を貫いた。

 

 だが、それだけ、、、、では終わらない。

 ただ銃剣、という珍しい武器を扱うだけで、ルークはここまでを生き長らえてきたわけではないのだ。

 

 そしてその証拠がここにある。

 

集え、、!」

 ルークが声を張り上げる。

 その瞬間、ルークが放った弾丸が、本来の軌道とはまったく別の方向に引き寄せられた、、、、、、、

 そしてその弾丸はとある一点――ルークが踏んだ石へと向かい、放たれた時と変わらぬほどの速度で動き、その間にいた賊達を一気に貫いた。

 

 それを見ていた、ルークを知る者以外の誰もが、その光景に驚愕を覚えた。

 ありえないはずの弾丸の屈折。

 それが、今自分の目の前で起こっていたのだから。

 

 だがそれこそがルークの持つ能力。『集結』。

 メインとなる『点』を設定し、そこへ、サブとして設定した『点』を一気に終結させるというもの。

 ルークをここまで生かしてきた、そのルークの持つ特殊能力だった。

 

「これだけで驚きすぎじゃないかな? こんなレベルの低い能力(、、、、、、、、)に」

 そう笑みを浮かべるルーク。

 だがその言葉は、決して自分に対する謙遜ではない。

 何故ならばこの『集結』という能力。その能力を使う際の制約が、他の能力に比べても非常に多いのだ。

 

 例えば今の状況。

 わざわざルークが足元の石に点を設定したのにも、その制約が関係している。

 何故ならば、その点の設定先には、生物やルーク以外の魔力に触れている物には設定できないのだ。

 故にルークは、足元にあり、かつ自分以外の魔力に触れていない石を選んだ。

 ただそれだけなのだが……それを知らない相手に取って、それは結局、異様な光景であることに変わりは無い。

 

 しかしルークも、戦場を抜けてきた戦士だ。

 ここでわざわざ自身の能力について説明する気などさらさらない。

 戦いとは、肉弾戦であると同時に心理戦でもある。

 故にそれどころか、相手の心が乱れるこの瞬間を逃すまいとルークは地を蹴り、

「はぁっ!」

 そして、先ほどの不意の一撃に体に傷を負った賊を、容赦無く切り伏せた。

 

 一つ言えば、ルークは決して体が強い方ではない。

 なので、実際の戦術としては今のように自分の能力などを組み合わせて戦うことを得意とする。

 だがそれでも――

「厄介な能力をっ!」

 背後から襲い掛かる、賊が一人。

 ――こういった状況は珍しくはないわけで。

 

 あの一瞬だけで能力の詳細を見極めたのか、とルークは舌を巻くが、決して焦りはしなかった。

 ルークの能力には、当然魔力を必要とする。

 故に注意をしてみれば、その仕組みに気づく者もいるのだ。

 そしてそう言ったこともまた、珍しくは無いわけで。

 

 だが。やはりルークはそんな状況でもやはり慌てない。

 

 考えてもみてほしい。

 エア第四部隊というのは、もともと生粋の神族などではない者達が集められた部隊だ。

 ということは、当然その部隊の誰もが多少の違いはあれども、似た者同士。

 そんな彼等に、普通の部隊と同じぐらいの絆しかないと思うだろうか?

 

 答えは、否。

 彼等の絆は、他の誰もが思うよりも強固で、そしてそれは信頼という鎖で繋がれているに等しいのだ。

 ということは、もう答えは簡単。

 

『ルーク! 頭を下げろッ!』

 途端にルークの頭に響くのは、その信頼の置ける仲間からの念話。

 それを疑うはずもなく、避けることが困難な体勢になることに構わずルークは頭を言われた通り頭を下げた。

 そして賊の剣が、ルークを切り裂こうと空気を断つ。

 だが、それがルークに当たる刹那。

 

 ルークの真後ろで剣を振った、念話の主の元・エア第四部隊のメンバーの一人が、賊の命を先に断った。

「が……ぁ……?」

 そんな、予想外の一撃。

 避けられるはずもなく賊はその場に倒れた。

「ナイスアシスト」

 体勢を立て直すと、ルークは笑って一言。

「お互い様ってな。それに、さっきのお前の能力で俺も少しばかり助けられた」

 そう仲間も笑いを返し、そして二人は手を叩きあう。

 

 さぁ、続きだ。

 そう『砲裂剣』を構え直したルークの耳に、

 

「カノン王国軍遊撃部隊だ! 全員、直ちに戦闘行動を中断しろ!」

 

 そこへ到着した、遊撃部隊の声が響いた。

 

 

 

 ルークが知るはずも無いのだが、現在遊撃部隊は天野美汐、水瀬名雪、斎藤時谷を欠かし、僅か三人の構成となっていた。

 なので、当然その場に到着したのも、残りの僅か三人であったのだが――

 

「これで全員ね?」

 その中の一人。沢渡真琴が、その巨大な炎の爪を携えながら言った。

 そしてその周辺には、その炎の爪にやられたのだろう。体に数多の火傷を作り、呻く賊達の姿がある。

 

「逃げた奴はいなかったはずだ。そっちはどうだ?」

 そしてこちらは、手に何を持つことも無い羽山浩一。

 だがその周辺に賊達が戦闘不能状態で倒れているのは、同様だった。

 

「こっちもいない」

『やれやれ……。人数が半分近くともなると、さすがに疲れますね……』

 最後の三人目、巨大な棺を背に携える緋皇宮神耶がそう告げ、棺の中からも、神耶の使い魔兼保護者的存在であるルヴァウルがそう最後に付け足した。

 そしてその周辺には……やはり戦闘不能と化した、賊達。

 

 その三人は――僅か三人でこの賊達を鎮圧してしまったのだ。

 もちろん、その戦闘の光景を間近で見ていたルークは――

「……おかしいよ、この国の人達って」

 そんな、率直な感想を述べるのだった。

 

 

 

 浩一は、ルークと、その他数名だけが纏う鎧を一目。

 そして、告げる。

「話は聞いてるが、あんた達が、元・エア第四部隊、でいいんだな?」

 賊達を駆けつけた他の兵達に任せ、遊撃部隊の三人は、元・エア第四部隊の面子と向き合っていた。

 その言葉に、数人の者が頷きを返した。

 それに浩一はうん、と何やら頷き、

「遊撃部隊所属、羽山浩一だ。

 とりあえず、今この場で代表して礼を言わせて貰う。賊の鎮圧の協力、感謝する」

 そう軽く笑みを浮かべ、言った。

「ちょっと、あたしからもお礼ぐらい言わせてほしいわよ。

 遊撃部隊所属、沢渡真琴よ。助かったわ、ありがとね」

 こちらもまた、そう笑みを浮かべる。

『さて、こうなれば我々も礼を言うのが礼儀、というものだと思いますが?』

「ルヴァウルうるさい。それぐらい分かってる。

 遊撃部隊の緋皇宮神耶。ありがとう、助かった」

 そして、最後に神耶がそう言った。

 ……ただ、他の二人と違い表情は無かったが。

 しかし、そんなことよりも。

 その場にいた元・エア第四部隊のメンバーの視線は、その一瞬で棺に釘付けになっていた。

 

 それも当然。

 始めてみた時は武器だと思っていたものが、先ほども含め二回。既に声を発しているのだから。

 そしてその様子に浩一も気付いたのか、苦笑を混ぜて口を開く。

「この中のことは気にするな。使い魔、と思ってくれればいい」

『そういうことです。あぁ、私はルヴァウル。その使い魔兼、神耶の保護者と思ってください』

 はぁ……と、数名がそんな曖昧な返事を返す。

 一応は納得した、という形でいいのだろう。

 そう判断したらしい浩一は、とりあえず、と言葉を続けた。

「この場は俺達が引き受ける。そっちは……そうだな、もうカノン軍に軍属も済んでることだし、何人かは城へ行って、終わったって事を報告してくれ」

「城へ……ですか?」

 ふと、一人がそう声を上げる。

「あぁ。あんた達も、もうカノン軍に軍籍を置いてるだろ? だから、何もおかしな話じゃないさ」

「つまりは、あんた達ももうカノン兵なんだから、それなりに働くってことよぅ」

 続けざまに放たれたそんな真琴の容赦ない一言が、今まで緊張状態だった彼等を苦笑に誘う。

「分かりました。報告はこっちでしておきます」

 そう誰かが告げて、場は収まる形となるのだった。

 

 ただし。

 誰が城に行くか、という口論がまたしばらく続くのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 かなり遅れましたが、第六話をお届けです。

 

 やー書きました書いてしまいました戦闘シーン。

 うん、文才がほしいです。

 戦闘シーンといいつつも、神無月さんのように血沸き肉踊るような感じには書けない(ぉ

 ぶっちゃけ主人公を生かすのに一杯一杯ですよ。

 

 あぁそれと、ルークの能力。またわけのわからないものが出てきましたね。

 一応、神無月さんに相談の上決定した能力なのですが、分からないことなどなどあれば拍手だろうが掲示板だろうがメールだろうがいってやってください。

 可能な範囲内でお答えしますので。

 ただ、今現在では話せない内容もありますよ? もちろん。

 それはまた後ほどのお楽しみです

 

 まぁ、それはともかく。

 今回は遊撃部隊の皆さん(半分だけど)が登場です。

 半分でも……まぁ賊ぐらいはきっと軽く鎮圧できるでしょう、と思って書いたのですが……まぁ大丈夫。

 しかし問題は、やはりキャラの口調とか性格……。上手くトレース出来てない……。

 特に、神耶。口調が何か変……どこか変……とにかく変なんです。

 どーして上手くいかないかなぁ……。

 ……まぁ、愚痴ってても仕方ないですけどねっ!

 

 それはさて置き、実は戦闘シーンは、ワン攻防戦の時まで取っておこうと思っていたんですよ。

 でも、どうにも抑えきれなくなって書いてみちゃった次第ですはい。

 ……結果がこれでは、もう救いようがないですがね……。

 

 この調子でまともな完結なんか出来るのかなぁ、と。本当に不安になってきました。

 人のキャラを書くのがここまで難しいとは……自分以外の二次・三次創作を書いてる方を尊敬です。

 

 まぁともかく。そんな感じでもとりあえずは頑張ります。

 ではまた。

 

 

 

 おまけ:『砲裂剣』設定説明

 

  ・種類

 銃剣、呪具

 

  ・呪い

 『魔力は弾丸となる』

 

  ・備考

 リボルバー式装填

 最高装弾数 六発

 飛距離 三十メートル程度

 呪いにより弾丸を装填することを主観に置いているため、通常方式の装填は不可能

 ハンマーを上げることが弾丸発射の前提であるため、連射は難しい

 なお、呪いにより生み出された弾丸自体には特殊効果は無い

 が、弾丸を生み出す際にはリボルバーに直接装填も可能

 

 

 

 ちょいと専門的な言葉に触れていますが、大抵の方は分かるかと。

 分からない方は調べればすぐに分かると思いますので詳細は割愛。