ステーションから二機のモビルスーツが飛び出す。

その先に見つけたのは攻撃を受けた二機のグスタフ・カールだった。

「真人! 謙吾!」

「お、おう……」

「くぅ……、不覚だ……ッ!」

どうやらパイロット二人は無事らしい。

「理樹はっ!?」

鈴は先に飛び出していった理樹の機体を探す。

「あそこだ! 俺たちの事はいいから早く行けっ!!」

「どういうことだ。一体どんなヤツが来たっていうんだよ」

冷静を欠いた謙吾に対し、恭介は聞き返す。

「見ればわかる、だから早く!」

「だから説明しろって……、アレはっ!?」

そう言いつつその方角に目を移す。

そこには理樹の機体とそれを追う見たこともないモビルスーツが一機。

だが、その光景は二人を驚愕させるに十分な状況だった。

その機体はこの部隊でも屈指の加速性を誇るはずの、ウェイブライダー形態のフロイントに追いつこうとしていたのだ。

「理樹ッ!!」










Episode V

『ファントム・モビルスーツ』











「くぅっ!? ふ、振り切れない!!」

ウェイブライダー形態でフルスロットル。

もうこれ以上は機体以前にパイロットである理樹自身が危険だ。

それでもなお後ろの謎の機体はスピードを上げつつ迫ってくる。

それに対して機体後部に向けて回転させたビームライフルを放つ。

だが、敵はそれすらも急旋回でかわし、反撃のビームキャノンを撃ち込んでくる。

「ぐっ、うぁっ!!」

こちらも旋回して回避行動をとるが、かわしきれなかったどころか急激なGが理樹に襲い掛かる。

胃液が一気に込み上げてきて、嫌な酸っぱさとさっきのスコーンの味が口の中で混ざる。

「理樹! そのまま進みつづけろ!」

通信から聞こえるのは聞きなれたいつもの声。

意図はもう読める。

その声から数瞬後に二機の間にビームが割って入る。

「恭介!」

その不意打ちすらも敵機はすんでの所でかわしてしまう。

「恭介、二人は……」

「大丈夫、なんとか動けたから鈴とイザヨイに向かった」

理樹は大きく旋回しつつ恭介のユーゲントと合流しようとするが。

「お前こそ無茶するなよ。それにあの機体……」

その行動をさせまいとするかのように敵機は迫ってくる。

「相当やばいぞ、コイツは!」










一方、ステーション管制室。

テロリストの監禁されたその場に外部から強制通信が入る。

『おつかれさま〜。こっぴどくやられたって感じねぇ』

通信機から聞こえる少女の声は、明らかに皮肉が混じっていた。

同時官制室から覗く宇宙に二機のギラ・ドーガが映る。

「おお! やっと来たか」

「今がチャンスだ。早くここから出せ」

テロリスト達は拘束されながらも思い思いの事を口にして救出を求める。

「えーと、どうするんだっけ?」

だが、彼女らはそれをよそに、まるで他人事のように話を始める。

「試験だよ。シ・ケ・ン! 覚えてないのかよ。バカつ沢」

「うわ、ひっどーい。それやめてって言ったじゃない」

口で喧嘩をしながらも、ギラ・ドーガは弾頭を取替えてゆく。

そしてそれをステーションの窓に向けた。

「お、おい! い、一体何を!?」

そしてその引き金は躊躇い無く引かれ、放たれた弾はステーションの窓に吸い込まれてゆく











その様子はイザヨイでも断片的ではあるが捉えていた。

ガンダムを通さない分、精度はかなり落ちるものの、ミノフスキー通信を応用したレーダーでなんとか敵の動きを観察する。

「後続の機体がステーションに攻撃をしてるみたいだよ」

「攻撃? まさか破壊しようとしているのか?」

小毬からの報告を聞いて唯子は更に情報を探るように指示を出す。

「えっとですね。命中はしましたがエアが噴出している様子はないのです」

クドリャフカが見るモニターからの報告では、その弾は窓を破ると同時に硬化液のようなものを噴出し窓を固めてしまっているらしい。

現に撃たれた窓からはゴミ一つ飛び出る様子はない。

報告を聞く前からここにステーションを移動させたのはそれなりの理由があってのこととは思っていたが、敵の意図があまりにも不明すぎる。

その時、鈴からブリッジに通信が入る。

『二人、連れてきたぞ』

彼女の機体は真人と謙吾の機体を牽引して着艦許可を求めていた。

「うむ。葉留佳君、直ちに回収軌道に入れ。美魚君、受け入れと修理の準備を」

「合点承知のスケッ!」

『了解。破損箇所のデータは来ています。いつでもどうぞ』

そういうと艦はゆっくりと回収軌道に入る。

『終わったらすぐに理樹たちのとこへ行く!』

モニターごしに鈴が叫ぶ。

だが、返事を待たずに回収にきたプチ・モビルスーツ達に二人を任せると、一瞬で戦場へと消えていった。

「鈴ちゃん!!」

「やれやれ。ああなった鈴君はおねーさんでは扱いきれんよ。微速前進、回収が終わり次第モビルスーツ隊の援護にうつる」

皆それぞれの敬礼が帰ってくると、イザヨイも彼女の後を追った。

そして今度は二機のガンダムと謎の機体をモニターしているスクリーンに皆目を向ける。










二機のガンダムは正体不明機を挟み撃ちにしている。

この表現が宇宙空間において正しいかどうかはさておき、その二機による攻撃にさらされながらも、正体不明機はまだ致命傷といえる打撃を一度も被ってはいなかった。

「くぅ!!」

恭介の駆るユーゲントの二連ビームガンが、敵機のブースターに直撃する。

だが、そのビームは着弾と同時にかき消され、有効なダメージにはならない。

「アレもシールドと同じかっ!」

Tフィールドシールド。

背中に二つ、両腕に一つずつ装備されたそれは、実体盾の表面にTフィールドを発生させる装備。

ビーム主体となっている近代モビルスーツの装備では有効にダメージを与えることが出来ないでいた。

「このォ!!」

理樹のフロイントはハイパービームサーベルを抜刀し接近戦をしかける。

その動きとほぼ同時に、敵機も腕部に内臓されたビームサーベルを展開した。

Tフィールド同士が互いに干渉し、宇宙の闇を照らし出す。

そしてその結果、押されたのはなんとガンダムのほうだった。

「そんなっ!? パワー負け……!!?」

「理樹ッ!」

恭介は肩に装備されたレールキャノンを放つ。

同時に理樹は敵機から離れ、相手もそれに合わせたかのように離れてゆく。

そして再び、三機は機動戦に入った。だが、敵機の加速度は明らかに二機のガンダムを凌駕していた。

それを可能にしているのはさっき破壊しようと狙ったTフィールドシールドだ。

両腕を曲げ、簡易の巡航形態に入ると、シールドに仕込まれたブースターが点火し、二機のスピードを一瞬で追い抜いてゆく。

「くそっ! なんだあのパワーと機動性は!」

「恭介! このままじゃ消耗する一方だよ!」

「ああ、わかってる。わかってはいるが……」

その時、猛スピードで接近するシグナルが一つ。

それは敵機への直撃コースに向かって一直線に突進していく。

鈴のジェガンだ。ヒートクローを展開させた必殺の一撃。

「うにゃーーーーーーーーっ!!!」

とった。そう理樹と恭介が確信したその時、敵機は背中の二機のシールドブースターを射出する。

「なにぃ!?」

驚いた鈴は慌ててアポジモーターをフル稼働させて回避する。

機体が壊れそうなほどの機動修正だったが、ファンネルとなったブースターの放ったビームの網からは辛うじて逃れる。

だがその隙は大きい。続けざまに肩に装備されたビームキャノンが咆哮をあげ、ジェガンの頭部を持っていった。

「鈴! 大丈夫!?」

「うう、なんとか……」

どうやらパイロットは無事らしい。

そう思った瞬間、イザヨイから通信が入る。

『モビルスーツ隊全機! 撤退を!』

小毬の叫びが響く。

「撤退? でも、まだステーションが」

「理樹! センサーを見ろ!」

「恭介!?」

慌ててセンサーを確認すると、そこには巨大な影が三つ。

「戦艦!? いつの間にこんな近くに!」

「こっちも今確認したところだ。恐らく戦闘に入ってすぐに最大船速ってとこか」

もちろんそこからはモビルスーツが次々と吐き出され行く。

そしてそのビームの掃射が降りかかる。

「まずい! 完全にはめられた!」

「どうゆうこと!?」

「理樹! さっきのやつが!」

鈴の言葉にはっとする。ここで自分達が足止めを食らえば、あの機動性を持つ機体は。

「イザヨイ!!」

気づいた時はもう遅い。

あの機体はもうイザヨイのいる方角に飛び去っていった。

「まずいよ恭介! イザヨイが!」

「ああ、わかってる。だからアレの提案が来た。理樹、準備だ!」

モニターには作戦のプランが表示される。

「了解! じゃあ、攻撃と同時に」

「ああ」

二機のガンダムは鈴の機体を庇うように寄り添う。

「一気に離脱だ!」











イザヨイの艦内でアラームが鳴る。

「隔壁閉鎖! みなさん、急いで中央ブロックに避難してください!」

「第三格納庫大破! 唯ちゃん艦長!」

「くぅ!! ここまでとは! 葉留佳君、理樹君達を見失うな。いつでも全速にできるようにしておけっ!」

「けど、姉御! 右舷のが一基大破、このままじゃ脚全部もってかれちゃいますよッ!!」

一瞬で肉薄してきたあの機体は、対空レーザーの砲撃の中でも確実にこちらに致命傷を与えてくる。

「第二格納庫隔壁異常! 避難は完了しているのですが中の資材が!」

「今は軽くなってちょうどいい! それより二人とも、モビルスーツ隊からのデータは!!」

その声に呼応するかのように、モニターが現れる。

『全機補足! どうぞ!!』

「サイコミュ接続、たーげっとろっく!!」

「捉えたよ!!」

モニターからの理樹の声を受け、小毬とクドの二人が叫ぶ。

「第一、第二マイクロファンネルミサイルコンテナ射出! てーーーッ!!」










ムサカ級から放たれたモビルスーツ隊は勢いに乗っていた。

「へっ! ガンダムっつってもこの程度か!!」

アクト・ドーガ隊の放つ様々な形状のビームパルスガンは、手負いのジェガンを守る二機のガンダムを追い詰めてゆく。

「おい、藤巻よぉ。あんま悪役っぽいこと言ってっと、危ないかもしんねぇぞ」

「日向、急にどうした。今のところ終始うまくいってるじゃないか」

その言葉を返したのは別のアクト・ドーガのパイロット。

「考えてもみろ、相手はガンダムだぞ? どんな秘密兵器隠してるかわかったもんじゃないんだぜ?」

そんなものかと思った瞬間、彼の通信に割り込む声があった。

『全機! 回避行動!!』

よく響く女の子の声に反応してモニターに目を移すと。

「うわぁーーーー!!!」

「オゥ、シィット!!」

「なんじゃこりゃあーーーーーーっ!!」

僚機の通信からも驚きというか混乱の声ばかり。

それもそのはず。いま彼等のモニターは画面を埋めつく勢いでミサイルの束が迫ってきていた。

「味方もいるというのに正気か!?」

だが、ガンダムはまるで予定調和のように変形すると、もう一機のガンダムとジェガンを乗せ、高速でミサイル群に突っ込んでゆく。

正気を疑う行動だったが、ミサイルたちは一基一基がまるで道を開けるように彼等のみを避けてゆく。

そしてそれらは同時にすべてこちらの直撃コースから外れようとはしない。

「まずい!!?」

そのミサイル群に各機は応戦するが、如何せん数が多すぎる。

次々と被弾してゆくアクト・ドーガ隊。

「で、デタラメをーーーー!!」

まるで意思を持ったかのようなミサイル達は数が減るごとに精度が増してくる。

遂にはこちらのビームをかわしたと思った瞬間、

(やられるっ!?)

そう覚悟したとき、あらぬ方向からのビームがミサイルを爆散させる。

四つの小さな影と一つの大きな影は、残る数十基のミサイルをすべて叩き落としていった。

そしてそれは目の前で一機のモビルスーツ、エンシェントへと戻ってゆく。

戦場の最中で、それはまるで花火を次々に打ち上げたかのように美しかった。

『あれがファンネルだったとは誤算だったわ。でも、全機生きてはいるわね』

通信が入る。

後方にいるムサカ級の一隻からだ。

『ギリギリなんとかなったわ。ありがと、かなでちゃん。』

「うん。こっちも推進剤が無くなったからもう追えないみたい。それにノイズも酷いわ」

見ると、敵艦は撤退していくようだった。

『というわけだから、皆も被弾してる奴を牽引して帰艦して頂戴』

若干、痛み分けのような気もしたが勝利と呼んでいいだろう。作戦は完了した。

『まあ、とりあえず……』

そうして一呼吸おいて。

『皆の衆聞けーーーー!! 久しぶりの壮大な補給だーーーーーーー!!』

大声でゆりは叫んだ。

皆、コロニーにも送ってやれるーーーとか飯ウマーーーとか叫んでいる。

こうしてイザヨイ隊との最初の戦闘が終了した。

「やっぱり、強盗じゃないのか?……コレ」



















あとがき

しばらく本家のZZのように明るいノリで行こうかと思っています。

まあ、彼等でやろうと決めた時から割りと明るく書けたらいいなとは思ってましたしこれでいいのかなぁ。

そして、どんどんガンダムなノリからははずれていきますね。

とりあえず、この企画自体がシリアスで重い感じの漂うUCガンダムに合わないんじゃないかと思い始めた今日この頃です。

そしてガサッと増える新顔達。より、シリアスに向かなそうですね。

もし、こんな企画に付き合ってくださるといってくれるなら、ときたま覗いてくださいませ。

最後に今回出た機体紹介でも。

でわ、また。












オリジナル機体紹介



MSN−XXX

エンシェント

武装

 サイコミュ式内蔵型ビームサーベル ×2

 ツインメガビームキャノン 

 ブースターファンネル ×4

特殊装備

 Iフィールドシールドブースター ×4

 戦闘補助用擬似人格AI



新型のOSを内臓したサイコミュ制御式試作モビルスーツ。

ジオンの流れを組む機体だが、サイコガンダムに系統する技術が流用されており、通常サイズのモビルスーツであるにもかかわらず、武装のほとんどがサイコミュ制御の固定兵装である。

全身に装備されたスラスターと背中、両腕のIフィールドシールドブースターにより驚異的な運動性と加速性能を誇る。

Iフィールドシールドブースターは切り離すことでファンネルとしても使用可能。

だが、その機体制御の難しさとパイロットにかかる多大な負担から、新型OSによる補助があっても乗りこなせる人間はほとんどいない。