From: 旦那


よう、ひさしぶりだな。元気にしてるか?

宇宙勤務にもそろそろ慣れてきたか? 

最初の話だとこのご時世だというのに危険な任務にわざわざ向かわないといけないと聞いたからどうしてるかと思ったが、話聞い
てりゃお前なりに楽しくやってるようだからまあ一安心だ。

けど気をつけろよ。こっちの方も最近物騒な話を耳にする。

確か、あそこは前話してたお前さんの故郷に近くなかったか?

それに加えてお前が忙しいってことはそっちも面倒なこと続きなんだろう。

まあ、暇が出来たらたまには連絡をよこせ。横のヤツもうるさいからな。

それとこの間送ってやったカステラ、なかなか評判だったらしいじゃねぇか。

んで、お前に指摘されたから次は日持ちする物を送ってやったぞ。

その任務が終わる頃には届くだろ。中身を楽しみにしとけ。

じゃあ、またな。





Episode T
           
『出撃、イザヨイ隊』







クラブのクイーンにハートのエースとスペードのエース、それにスペードの10にジョーカー。

この手札が導き出すのは、

「スリーカードだね」

「お、やるな理樹。俺はツーペア、僅差で負けたな」

「こっちはもう無理だな。ワンペアだ」

「鈴は?」

そう呼ばれた少女は自信たっぷりに、

「フルハウス」

「だあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!!!!」

その手札を見せたと同時に横にいた大柄の少年は絶叫を上げる。

「いきなりうっさい、ボケ!」

そして少女のハイキックが少年の後頭部にクリーンヒットしそのまま倒れた。



戦艦イザヨイ。

ここはそのMSパイロット用の待機所。

現在、この艦は任務中。

数日前に近々民間に払い下げられる予定だった旧型の宇宙ステーションにテロ集団が襲撃し占拠されたとの報告があった。

しかもそのステーションにはテスト予定の新型が運び込まれていたうえに、テロ集団はステーションの姿勢制御機能を一方向のみ
に集中させることで自走し、地球圏外に逃亡を始めたというのだ。

そこでこのカンナヅキ級量産試作艦イザヨイとその部隊にステーションの奪還と新型確保の任務を命じられたというわけである。

このイザヨイはコスト面の関係でクラップ級に敗れた艦ではあるが、その分ベース艦には劣るものの火力に優れ、さらに現行で稼
動している戦艦の中ではトップクラスのスピードを誇る高速艦である。

ゆえに今回の任務も計算上ルナツーから数日後には追いつくとのことであった。

つまりある意味数日の間暇なわけだ。

そこでふとMS隊の隊員である直枝理樹が暇つぶしになにかしないかと言い出したのを切っ掛けに、普段からこういった任務にた
びたび駆り出されている彼らはここぞとばかりにその提案に飛びつき、この艦のMS隊の隊長、棗恭介の提案する様々な遊びに興
じていた。

そしてそんな時間もあっという間に過ぎてゆき、今日中には目的のステーションに追いつくということで今は彼らだけで待機中と
称し、

「軍人ならやっぱトランプは欠かせないだろ」

という恭介の提案の元、棗鈴、井ノ原真人、宮沢謙吾を加え、MSパイロット五人でポ
ーカーに興じていた。一応いつでも出撃できるように皆ノーマルスーツは着ているが。

「クソォッ! ぜんっぜん揃わねぇじゃねぇかーーーーーーーっ!!」

そういって勢いよくがばっと起き上がる。

「お前が負けるのが悪い」

そして賭けられていた金貨チョコが真人の下から鈴のところへ。

「くそぉ。せめてこのトランプに筋肉がついてりゃ、ぜってーに負けねぇのによっ」

その言葉を理樹はなんとなく想像してみる。

絵柄が筋肉で脈動するトランプ。

キングやジャック達は自らの筋肉をこれ見よがしと誇示し、クイーンですらも毎日の筋トレに余念が無くむしろこの中では最も立
場が強い。ただの絵柄も例外ではなく皆それぞれ精進に励み、特にハート達は心臓に匹敵する筋肉を獲得し常にドッキンドッキン
脈打っている。そしてそれを傍から見ているジョーカーはほくそ笑みつつも実は私脱いだらすごいんですと言わんばかりに服の下
には隆々とした筋肉を蓄え……。

(うわぁ……)

手札の柄が不気味に見えてきた時点で思考を停止する。

「きしょいわ!」

「なんでもかんでも筋肉にするな。この間の模擬戦でも同じことを言ってたじゃないか」

更に謙吾までもツッコミをいれると、

「なにぃ! モビルスーツに筋肉は関係ありません、っていうかその無駄に大きなガタイだとシートを特注しないとうまく操縦す
ることすらできないんじゃないですか。とでもいいたげだな、オラァ!!!」

手札を床に叩きつけながらものすごい剣幕で言い掛かりをつける。

「だれがそこまで言った!」

「コラコラ。二人とも、もうすぐ出撃命令が出るかもしれないんだぞ。ケンカはよせ」

お互い立ち上がり睨み合う所にすかさず恭介が仲裁に入る。

「……そうだな。大人気無かった。なら俺は少し格納庫でシミュレーションでもしてこよう」

そう言い残して一人部屋を出てゆく。

「チッ、しゃーねぇ。オレもちょっと抜けるわ。もう賭けるモンもねぇしな」

「どこにいくの?」

「ああ……。こないだお前と話してた、無重力下における筋肉の特訓を試してみるつもりだ」

理樹のその言葉を待ってましたとばかりに真人は語り始める。

「ええ!? でも真人あれは……」

「止めるな理樹。これが成功すれば全身の筋肉を一度に刺激することのできる画期的なトレーニングとなりうるんだ」

そして振り向いてニカッと笑うと、

「じゃあ、いってくる」

そういって部屋を後にした。

「理樹、あのばかとなんかあったのか?」

「いや……なんというか」

「むう、人数も減ったことだしブリッジにでも出てみるか」

「そうだね。あとどのくらいで着くかわかるかもしれないし。鈴も行く?」

彼女はその言葉にチリンという音で答える。

「うん、じゃあいこうか。って恭介?」

「いや、どんな手札だったのかと思ってな」

トランプを片付けると同時に恭介はさっき真人が捨てた手札を見ていた。

「…………」

「そんなにひどかったの?」

「ロイヤルストレートフラッシュ……」

そういって恭介が見せた手札は正真正銘ロイヤルストレートフラッシュだった。

「え!? じゃあなんで……ってまさか……」

「ああ。アイツには始め、とりあえず数字が揃えばいいから、って教えたからな」

つまるところ彼は役に気づかず負けたということだ。

「やっぱりあほだな」

そういった鈴はしっかりと金貨チョコの詰まった袋を握り締めていた。




「でも、ステーションごと逃げるなんて何を考えてるんだろうね」

ブリッジに続く通路で理樹は話を切り出す。

「さあ、今回の事件は目的がわからん」

「人質をとってるわけでもないんだろ?」

「ああ。聞いてるのは奪われたステーションを奪取しろって命令と新型の確保、もしくは破壊ってだけだな」

「中将の命令にしては簡潔だね」

「俺もそう思ってる。ひょっとしたら中将自身も……」

そんなことを言いあっているうちにブリッジに着く。

するとそこには戦艦のメインブリッジとは思えない香りが……。

「やあ、パイロット諸君。ちょうどいいところに来た」

その落ち着く香り漂うブリッジの中央には軍服をラフに着こなした艦長の来ヶ谷唯子がティーカップを片手に座っていた。

「おっ、パイロット達もこの香りに誘われたようですネ」

「わふー。いらっしゃいですー」

「みんなもお茶とお菓子いかがですかー」

「……わたしもオジャマしています」

ブリッジのメイン要員である総舵手三枝葉留佳、通信手兼サブオペレーターの能美・クドリャフカ、メインオペレーターである神
北小毬らブリッジクルー達、更には整備班班長であるはずの西園美魚までも加わり、その空間はおよそ任務真っ最中の戦艦のブリ
ッジとは思えない雰囲気に包まれていた。

「出撃前の心身の補給デスヨ」

そういって理樹たちにもさっきからの香りの元であるハーブティーが注がれる。

「おいおい。いいのか? 一応任務中だぞ」

「なぁに、艦長である私が許可した。それに肩に力が入っていては任務に差し支える。それにそういう恭介氏もすでにしっかりと
参加してるじゃないか」

それどころか近くにあったスコーンもひとつ拝借してかじっていた。

「はい。りんちゃんもこっちへどうぞ」

「うん」

そんな会話の向こうでは鈴もすでにお茶会に参加中だ。

「西園さんまで。格納庫は大丈夫なの?」

「はい。後は任せていますので」

「はぁ、ほんとにここは戦艦のブリッジなのかな」

「なんだ少年。こんな美少女達を従えつつ優雅に出陣とは今すぐ俺にその席を譲れ○ァッキンベイべーとでも言いたそうな表情を
しているな」

「いや、してないから!」

「まぁまぁ。はい、リキもどうぞ」

「あ、うん」

受け取ったハーブティーの香りは気孔の奥をスッと通り、一口飲むと芯から落ち着くようだ。温度もちょうどいい。

「ありがと、クド。それであとどのくらいで追いつきそうなの?」

落ち着いたところで理樹が本題に入る。

「ああ、心配せずとももう追いついている」

その言葉に唯子はしれっと答えた。

「ええ!? じゃ、じゃあこんな事してる場合じゃないよ! 早くモビルスーツに……」

「といっても今しがたようやくレーダーで確認ができたところだ。相手も動いてる以上まだ少し時間がかかるな」

「だからみんなにも知らせようとしたんだけど、そしたらちょうど入ってきたんだよー」

その言葉を聞いて理樹はガクッと肩を落とす。

「心配させないでよ。てっきりもう目の前に居るのかと思っちゃったじゃないか」

「はっはっは。だが、もうすぐ着くのは確かだ。食べ終わったら……」

「! ゆいちゃん艦長、目標が動きを止めたよ!」

今度は唯子がガクッと肩を落とす。

「だからその呼び方は……いや、今はそれより状況を。クドリャフカ君、今の速度だとどのくらいで接触できる?」

「はいっ、あと十五分ほどで接触できますっ」

「よし、葉留佳君はそのままの速度で前進」

「りょーかいっ、姉御!」

そして座り直しつつ指示を出してゆく。

「恭介隊長」

「了解。ドンピシャのタイミングだな、脳に糖分補給もできたしちょうどいい。二人とも!」

「うん!」

同時にチリンという音も響く。

「わたしも格納庫の方に戻ります」

「みんな、気をつけてね」

「ぐっどらっくですっ!」

そして四人は移動用のバーにつかまりブリッジから格納庫を目指す。

「みお、このあいだの」

「はい、注文通りに機体反応と武装の調整は済んでいます。そちらのお二人の機体も整備は万全です」

「ああ、了解。おまえらの整備は最高だからな。なぁ理樹」

「う、うん」

「ん? どうした理樹。また緊張してるのか?」

「いや、やっぱり出撃前はちょっとね」

「心配すんなって、俺達はチームだ。それにおまえは十分やれる」

「そうかな……」

「ああ、自信を持てって!」

「…………」

「どうした? みお」

「いえ、お気になさらず……」

そして格納庫に到着する。

「お、来やがったか」

『遅いぞ。三人とも』

真人はちょうど機体に乗り込もうとしていたところのようで、先に格納庫に向かっていた謙吾はもうすでに自分の乗機の中だ。

「スマンな。ブリッジ、敵の様子は?」

そういいつつ恭介が乗り込むのは全身に火器を装備した重厚な機体。

だが、そのフォルムは特徴が一つ。

その機体は大型のマルチブレードアンテナを額に装備した、そう、ガンダムと呼ばれる機体だ。

『ミノフスキー粒子増大。同時に敵機の出撃を確認しましたー』

「よし、理樹、鈴。準備はいいか」

「完璧だ」

「こっちもオッケーだよ」

鈴が乗るのは彼女専用のカスタムジェガン。

そして理樹が駆るのは、恭介の乗る機体とは対照的に武装は基本的なスマートな機体。

この艦の要でもあるもう一機のガンダムだ。

「おっしゃあ、じゃあ先にいくぜ! 井ノ原真人、オレ式グスタフ・カールゥ、いっくぜぇぇぇぇ!!!」

「ではこちらも出撃する。宮沢謙吾、グスタフ・カール、参る!」

左右のカタパルトからそれぞれ発進する。

「じゃあ、次は僕たちだね」

「うん。遅れるな、理樹」

そういいつつ二人の機体も位置につく。

「第一カタパルト、理樹くん」

「第二カタパルト、鈴さん」

『発進準備、おっけーだよ。二人とも頑張って!』

『ですーっ!』

「うん、了解だ。棗鈴、ジェガン、いくぞっ!」

「よぉし、直枝理樹、フロイントガンダム、いきます!」

その掛け声とともに、二人の機体が颯爽と宇宙に飛び出す。

「さて、最後は俺だな」

『恭介氏』

その時、ブリッジから通信が入る。

「来ヶ谷……いや、艦長か。どうした」

『いつもどおりでいい。それより恭介氏は今回の任務どう思う?』

そういう唯子の表情は真剣だ。

「なんの要求も無く逃亡した犯人か、それとも新型のテストとタイミングのいい占拠事件か、どっちだ」

『両方。それに加えあのステーションについてもだ。払い下げされる予定とは聞いているが、ここのところ全く何も行っていない
という記録が逆に怪しい。どうしてそんな場所が……』

唯子の顔に少し不安の色が陰る。

「それを調べるのも今回の目的だ。もしかすると中将の事をよく思っていない連中の差し金か……。いずれにしろそれは後だ」

『ああ、邪魔をした』

「気にするな。……カタパルト接続完了」

『進路クリア、恭介さん、どうぞっ』

「棗恭介、ユーゲントガンダム、出る!」

それぞれの思惑と共に、戦闘は始まりを告げた。















あとがき

はい。一応ガンダムKanonの三次創作です。いやほんとに。

戦艦の名前はベース艦が月の名前だったので日付の名前。芸がないのでわかりやすいですね。

この雰囲気は軍艦じゃないですね。メンバーがメンバーだからかもしれませんが。

しかしリトバス、EX発売決まったのにネタに使って大丈夫なんでしょうか(2008年3月現在)?

機体スペック等は次回に。

でわまた。