「さて、どうやって過ごそうかしら」

 久々に訪れたとある休日、近衛騎士団副団長である藤林杏は暇をもてあましていた。

 休日なのだから、友人と過ごしたり、たっぷりと睡眠をとったりすればいいのだが、

「あーもー、ここでの暮らしに慣れ過ぎて眠れないわね」

 本来自堕落な性格の杏も規則正しい生活に慣れてしまって朝早く起きてしまって、眠気も催さない。

 友と呼べる者もいるが、今日はたまたま彼女だけが休みで他のメンバーはおのおのの仕事をこなしている。

「ま、歩きながら考えるか」

 そう呟いて、王室勤めになってからめったに着なくなった町娘らしい私服に着替えた。

 神魔戦記 三次創作

                 「リンゴと呪具と未来と」

 王都の中でもにぎやかな市場を目的もなくのんびりと歩く。

 紫の長い髪を揺らしながら、店を冷やかして回る

「ちょっと、おじさん。このリンゴちょっと古くなってるんじゃない?」

「そんなこたねえ、産地直送の昨日入荷したばかりよ」

「ふーん、でもすこし脆いみたいね」

 そう言いうと杏は、おもむろに一個リンゴの山から取り出して握りつぶした。

「なっ……」

「うあっ、ちょっとやわらかくなりすぎじゃない?」

「じょ、嬢ちゃん。このことはどうか内密に」

「そうねえ……」

 ニヤニヤと笑いながら、

「それじゃ、今握り潰した分の含めて5個で200ゼニーってとこでどう?」

「に、200。か、勘弁してくれそれじゃあ食ってけねえ」

「ふーん、寒い地域のカノンでもリンゴってそんなに安くならないのね」

「ん、お嬢ちゃんは外国の人かい?」

「さぁ、どうでしょうって、そこのあんた何やってるの」

 杏が店主と値切り交渉をしている隙にリンゴを盗もうとしている子供がいた。

 けれど、その程度が見破れぬ藤林杏ではない。

「いいわ、250払うから、ちょっと待ってて。あの子捕まえてくる」

 そう言って杏は銅貨を店主に投げて子供を追いかけ始めた。


 子供は小さな体を利用して路地裏の中に入って逃げる。

 しかし、どうしても自力の違いというものがある。

 どんなに小回りが効こうと普段から鍛えている杏からは逃げられる筈もない。

「捕まえたっと」

「は、離せよ」

「離せって言われて離すバカが何処にいるのよ」

「いるかもしれないじゃないか」

「そうね、でもこんな路地裏に来たならもう逃げられないわ」

「はっ?」

「――大きくなる――」

 サイズを小さくしてポケットに忍ばせていた大黒庵・烈に刻まれた呪い(まじない)を読み上げる。

 すると地面が大きくなりあっという間に完全な出口のない行き止まりになる。

「くっ、あんた何者なんだよ」

「あ、あたし? そうねえ、他人のこと訊くならまず自分のことからね」

「……ケイ」

「ふーん、ケイ君。んで、君の家は何処?」

 大黒庵・列をポケットに入るサイズに戻しながら杏は訊く。

「家はない、孤児院暮らし」

 孤児院、その言葉を聞いて杏の表情が険しくなる。

「孤児院ぐらしの君がなんで、こんなことしてるの?」

「足り……なかったから……」

「足りなかった? 何が?」

「孤児院にある食べ物が足りなかったからだよ」

「えっ?」

 孤児院、医療や福祉関連の施設は祐一が優先して力を入れてきた政策だ。

 それに手が抜かれてるとは考えにくい。

「ちょっと、あたしをその孤児院まで案内しなさい」


 大きくした地面を元に戻し、さっきの店主に盗んだ分のリンゴの代金を支払ってから孤児院へ向かった。

 前は、栞の診療所を孤児院替わりに使っていたが、戦争孤児が本格的に増える中で、ルリエンダという人材も見つかって王都に新しい孤児院が設置されたはずだったのだが。


 孤児院に着くと、そこにはたくさんの子供たちがいた。

「ケイにいちゃん、そのお姉ちゃんだれ?」

「わかんない。でもリンゴ盗ったら捕まってそれからなぜかここに案内させられた、ほらお土産だ。大丈夫、これはこのお姉ちゃんの奢りだ」

 そう言うと、少年は子供たちにリンゴを配り始めた。

「確かに、食べ物は足りてなさそうね」

「だろ? だからちょっとぐらい」

「いいわけないでしょ、仕事でもなんでも探しなさいよ。んで、ルリエンダ様はどこ?」

「え、なんでルリエンダ様の名前……」

「有名人じゃないのよ。とにかく案内なさいよ」

 そうして、半ば強制的にルリエンダの部屋に入っていった。


「ルリエンダ様〜」

「おかえり。おや、そちらの方は?」

 杏を見てルリエンダは尋ねる。

「あ、すいません。あたし、近衛騎士団の副団長やってる藤林杏っていいます」

「えーー!!」

 ルリエンダも驚いた顔で杏を見たが、ケイの驚き方はその比じゃなかった。

「え、じゃあ。お姉ちゃん騎士様なの? そんな格好で」

「まあ、一応ね。でも今日は休暇なのよ」

「それで、騎士様がどうした用事でこちらへ?」

 ルリエンダは落ち着いた様子で杏に訊く。

 それに対して杏はことの顛末を簡単に説明した。

「そうですか、あれほど盗みはいけないと言ったのに」

 困り顔でルリエンダはケイを見る。

「だって、リディア姉ちゃんたちも前は泥棒してたし……」

「誰かがしてるから自分もしていいなんて考えてはいけません」

「そうね、罰として……、なんか紙と書くもの貸していただけますか?」

 そう言って、杏は神とペンを受け取りさらさらと紙にメモを取り始めた。

「これを買ってきなさい。お代はほら、これで十分足りるはずだから」

 そう言って、5万ゼニー分にあたる金貨を投げた。

「ちょ、ちょっと待って。こんなにたくさん一人じゃ持ちきれないよ」

「何回も往復なさい、男の子でしょ」

 そう言うとケイはうっ、と表情を険しくながら部屋を出て行った。


「さて、ルリエンダ様」

「わかっています。どうしても、食べ物が足りないことぐらいは」

「いえ、そうじゃないんです。なんで、子供が増えていることをなんで担当の役人に伝えないんですか」

 この手のことなら、本来迅速に改善すべきことなのだ。

 祐一ならまず迷わずにそうするだろう、だが何故こうなっているのか。

「いくら申請しても次の週からなんです、援助物資とかが十分に送ってくるのは」

 それを聞いて頭の冴える杏はすぐに事態を理解した。

「なるほど、でも次の週にはもっとここを聞きつけて集まってくる孤児が増えるっと」

「はい」

 浮かない顔でルリエンダが答える。

「うん、あたし程度の権限でどうにかなるとは言い切れないけど一つだけ約束させて下さい」

 杏は、真っすぐルリエンダを見て、

「祐一……陛下に帰ったらすぐにかけあってみます。祐一はあたしなんかより頭いいからきっとずっといい手段でこのことを解決してくれますから」

「そこまで、していただかなくても……」

「ううん、そうじゃないのよ」

 申し訳なさそうにするルリエンダに向かって杏は微笑んで、

「きっと祐一もここにいる一人一人のために直接なにかしたいんですよ」

 心の中で、かつて幼くして両親を失ったことがあるから、と付け加える。

「でも、王として他にもやらなきゃいけないことはたくさんある、だからせめて物を送りたいただそれだけなんですよ。

 だから、ルリエンダ様。あなたが、不足を感じたときもっとたくさんを望んでいいんですよ。

 リディアたちみたいな子を育てる能力(ちから)があなたにはあるんですから。

 その能力を発揮させるのが国の役割ですから」

 そう言って、杏は軽く微笑んだ。

 しかし、ルリエンダにとってはそんなことよりも気になることがあった。

「……、リディアたちはお城の方でも元気にしてますか?」

 それを聞いて、子を想う母ってこんな気持ちなのかなと杏は思いつつ、

「大丈夫、今も元気に三人でバカなことやってますよ。特に、ほらこの呪具」

 そう言って、二つの槌ーー大黒庵・烈と小貫遁・瞬を取り出した。

「これ、もともとあたしが持ってた呪具をルミエに改造してもらったんです。

 それに、最近まであの城で療養中のあたしの……友達の助けになる呪具をルミエは何日もかけて作ってましたし、

 あたしとは、リディアやシャルはそんなに話すわけじゃないからよくわかりませんけど、

 今はきっと罪滅ぼしなんかじゃなくて自分からこの国を守りたいって気持ちで戦い続けてます」

 それを聞いたルリエンダは少し複雑そうな顔をした。

「あたしたちが戦力として彼女たちを頼ってるのはわかってます。でも、彼女たちも……」

「ええ、わかってます。それでも、我が子のような存在を戦場へ送り出すのは複雑なものなのですよ」

 そう、寂しい笑みをルリエンダは浮かべていた。


「買い物おわりましたー」

 そうしていると、杏がケイが戻ってきた。

「お疲れさま。っと、ルリエンダ様。厨房貸してもらえますか?」

「は?」



 その後、厨房に入った杏はテキパキと調味料を見定めながら買ってこさせた野菜を切り始めた。

「ほら、ぼーっとみてないで、手の空いてる子は手伝う」

 杏の買ってこさせた大量の食料も大人数で消費するなら一食分に過ぎないだろう。

「ーー水は集まるーー」

 ワンの外交官ーー里村茜の傘に刻まれたものと同種、とは言ってもそれと比べれば遥かに劣る呪具を炊事担当の女に使わせて、鍋を水で満たした。

「ほら、野菜はさっさと切る。あー、肉はまだそこまで火を通さなくていいから」

 杏が厨房で野菜を刻みながら怒鳴る。

「お姉ちゃん、戦うのだけじゃなくてお料理も上手なんだね」

 ケイが手元も見ずに野菜を切り続ける杏に向かって感嘆の声を上げる。

「あたしは、戦ってるよりはこっちの方が向いてるのかしらねえ、って。

 あんたは井戸に行って米でも洗って来なさい」

「は、はーい」

 本来ならば水を集める呪具でこと足りることだが、米を研ぐときは魔術や呪具の力でマナから集めた水じゃなく、天然の水で洗うことが杏が料理するときの密かなこだわりだ。

「よーし、鍋の中にいままで切った野菜をいれちゃいなさい」

 寸胴鍋の中大量の野菜が放り込まれる。


 杏は真剣な目で鍋を見ながら、

「手の空いてる子は米洗うの手伝ってさっさと炊いちゃいなさいよ」

 と、的確に支持を出していく。

「なんか、あっちじゃもうお米炊いてるみたいだよ?」

「そ、そう。みんな手際いいのね」

 想像していたよりもここにいる子たちの手際がいい。

 だから、杏は鍋をかきまわしながら味付けの方に集中できる。

「ねえねえ、お姉ちゃん」

 持ち前の面倒見のよさから、孤児院の子供たちから「お姉ちゃん」の呼び名が定着してしまったようだ。

「なあに」

「いっしょに、あそんでー」

「だーめ、あと少しでコレをいれなきゃいけないから」

 そう言って取り出したのは茶色い粉

「これってカレー粉?」

「そうよ」

「カレー大好きー」

「あら、それはよかったわね。じゃあ美味しいカレーが食べたいならもう少し我慢なさい」

「ハーイ」

 祐一たちと生活するようになって以来、いや椋を探しにクラナド軍を抜けて以来、しっかりと厨房で料理をすることがなかった。

 それだけに、久々に料理をするのは杏にとって楽しいものだった。

「んじゃ、ここでアンケート」

 厨房で手伝いをしていた少女たちに向かって杏は訊く。

「なになにー」

「今夜のカレーはスパイシーなカレーと、甘いカレーどっちがいい?」

 杏本人は、どちらかといえば辛いカレーの方が隙だ。しかし、小さな子供も多い孤児院ではそうではないだろう。

「甘いのー」

「辛いの苦手ー」

「あーまいの。あーまいの」

 口々に甘いカレーの方がいいと少女たちが叫ぶ。

「あー、はいはい。わかったから静かに。それじゃあ、ちょっとその袋とって」

 それは、昼間に市場で買い取ったリンゴだった。

「まさか、」

「そのまさかよ」

 そういうと慣れた手つきでリンゴの皮をするすると向いていって一口サイズに切っていった。

「えー、リンゴ入れるのー?」

「そうよ、甘いカレーっていっても直接砂糖をいれるよりこうした方がまろやかになるの」

 そう言いながら一口サイズにしたリンゴをさらに細かく切って鍋の中に入れた。

「ねえねえ、お姉ちゃん」

「なーに?」

「もう、遊べる?」

「そうねえ。遊べるんだけど……」

 鍋のカレーをここからじっくりと煮込まなければならない。そう思いながら鍋に目を向けると、

「僕が鍋を見てるよ」

 ケイがすすんで申し出た。

「あら、そう。じゃあカレーが焦げないようにじっくりとかき回してて」

 そう言って、かきまわし棒ケイに渡した。


 そうしてから、杏は子供たちと遊びに遊んだ。

 最初は、割と大きな子たちが中心だったからドッチボールとかバリバリの運動系だったけど、

 少しずつ小さい子が混じるようになってからは砂遊びをする子たちに気を配りながら、キャッチボール程度に切り替えた。


 「ねえねえ、姉ちゃん」

 遊びに混じってた中でも歳上の、ランドというらしい男の子が訊いてきた。

「なあに?」

「姉ちゃんは、お城の騎士様なんでしょ?」

「うん、そうよ? でも、なんで?」

「じゃあ強いの?」

「そうね、自分で言うのもなんだけど今はまだ強い方ね」

「リディア姉ちゃんや、シャル姉ちゃんより?」

「うーん、流石に本気を出されちゃあの二人に敵わないわね。で、君は強くなりたいの?」

 シャルについてはラドスを一人で壊滅状態に持っていった話を聞いているし、リディアの真の実力についても休戦前の最後の戦いの後に聞いた。

 確かに特殊属性の力で鎧を叩き潰されたら工夫する暇もなく殺されるだろう。

 そんなことを思いながらランドに尋ねる。

「うん、リディア姉ちゃんたちみたいになりたいんだ」

「そう、なら軍の士官学校に入ってみる? それとも魔術学校でもいいけど」

 軍の士官学校。叩き上げの戦士を育成するための旧カノンの頃潰されなかった数少ない国営の教育機関だ。

 二年で卒業しそのまま優秀な者は近衛騎士団、そうでない者も騎士団か町の警護兵にはなれる。

 ただ、純粋な意味での叩き上げで隊長格にまでなった者が一人もいないのは確かなのだが。(倉田一弥は家系的に言えば貴族である)

「ううん、そうじゃなくてリディア姉ちゃんたちみたいにスカウトされたいんだ」

 そうランドが言うと今まで優しかった杏の目つきが鋭く変わった。

「やめときなさい。そんな半端な気持ちで軍に入ろうとするのは」

 突然の豹変に驚いたのか、

「な、なんでだよ」

「リディアたちでも同じこと言うでしょうね。そんなの、実力を認めさせようとしてるだけだって」

 少年は、ギクっとなった。

「あなたは強くなって、自分の力を認めさせて何をやりたいの?」

「そ、それは……」

「あたしは、まずは妹と再会するわ」

「妹……?」

「行方不明のあたしの妹が、二十七祖ですら手を出すのも憚る問題と絡んでるみたいなの。

 でも、今の現状はそれと同じぐらい重要なことがあるわ」

「何……」

「この国ーーカノンを守ること。ううん、カノンにいる友達、一人一人を守る。そして、祐一の願い『全種族共存』を完全に実現させるの」

 そう言う、杏の目には迷いがなかった。

「だから、そんなかつての何もわかってなかった留美みたいのがいても足手まといなのよ」

 留美……といっても目の前の少年には理解できなかったかもしれない。

 しかし、かつての姿が今の自分と似ていたこと。そのことを杏に軽蔑されたことだけは解った。

「さっきから、偉そうに」

「あら、あたし近衛騎士団の副団長でそれなりに偉いんだけど?」

「リディア姉ちゃんたちにも勝てないのに……」

 そこまで馬鹿にされて黙っている杏じゃない。

「そこまで言うなら相手してあげるわよ。そうねえ、もしあたしが負けたら近衛に入れてあげるわよ。その程度の権限ならあたしにもあるから」

「なら、俺が負ければ」

「あら、最初から負けること想定してるの? その程度なら絶対にあたしには絶対勝てないわよ?」

 そう言ってポケットの中から大黒庵・烈を取り出した。


「なめやがって」

 激したランドが、首輪に手をかける。

「ーー風は音を奪うーー」

「な、呪具?」

 そう叫ぶも杏には自分の声も耳には届かない。

 杏が驚いてる隙にかぶっている帽子に手を当てながら、

「ーー光は集まるーー」

 レンズで集めたような光が杏の目をめがけて差し込む。

 やむなく、これを目を瞑って杏は回避する。

 しかし、それこそがランドの狙い。

 足を魔力強化して一気に杏への間合いを詰める。

「えっ」

 しかし、なんのためらいもなく、杏は自分の方へ大黒庵・烈を振ってきた。

「馬鹿な、なんで」

 驚いてる間に、杏の視力が回復してきたのか目が半開きになっている。

「くっ、ーー光は集まるーー」

 苦し紛れに呪具の呪(まじな)いを読み上げるが。

「もう、それは通用しないわね」

 そう言うと、杏は目を閉じたまま大黒庵・烈でランドを殴り飛ばした。


 杏の一撃で気絶したからか、かかっていた呪(まじな)いが解ける。

「すっげー」

「おねーちゃんつえー」

「ランド兄ちゃんが負けたのはじめて見たー」

 遠巻きに見ていた子供たちが口々に杏を褒める。

「ちょっと、そんなことしてないで誰か回復系の魔術か呪具使えないの?」

「ないよ、栞のおねーちゃんもいなくなっちゃったから診療所も今はちょっと高いし」

 そう言われて、あちゃーと自分の頭を叩く。

 少し、子供相手にやりすぎたかしらね……と思っていると。

「つ、つつつ。あ、あれ勝敗は……?」

 ランドが体を痛そうにしながら起き上がる。

「あ、あんた意外と回復早いわね」

「回復……ってことは」

「ランド兄ちゃんの惨敗」

「どうみてもお姉ちゃんの勝ちだよ」

「そうだよ、そうだよ」

 みんな口々にランドに言い始める。

「畜生、なんで目を瞑ったまま攻撃できんだよ」

「あら、そんなことまで覚えてるの。なかなかやるじゃない」

「俺は何でって訊いてるんだ!」

「そんなの、簡単よ。いくら、音と視力を奪われても大したスピードじゃないし気配を追うことに集中すれば雑作もないわよ

 こんなの士官学校通ったのなら誰もが勉強することよ」

 魔力強化とともに魔力察知。どちらも基本中の基本と同時に極めるのは難しい技術である。

「なっ……」

 さらに言えば自分の呪具の能力である姿が見えなくなることと残像をつくること。その弱点が気配察知である杏にとって、似たような手口はカモでしかない。

「今使った呪具はルミエが作ったもの?」

「そ、そうだけど」

「きっとルミエもその弱点がわかり切っててあなたにあげたんだと思うわよ」

「うっ」

「体術もろくすっぽできない、剣術ができるでもない、呪具の使い方は馬鹿正直。魔力量もあたしと対して違わない……。

 こんなんでよく、スカウトされる……だなんて言い出すわね」

「ま、魔力量はあんたとあんまりかわらない?」

「こら、歳上に向かってあんたって何事」

 ゴチンとげんこつを作ってランドを軽く殴る。

「多分、隊長格の中じゃあたしが一番魔力ないわよ? でも、あたしは『戦い方』で勝ってきた」

「戦い方……」

「あ、あたしのコレ実は呪具なのよ」

 そう言って、ポケットの中から小さくしていた小貫遁・瞬を取り出し、

「ーー大きくなるーー」

 二つの槌を自分の背丈以上に大きくした。

「なっ」

「でも、二本とも使う必要も呪(まじな)いを読むまでもないわ。

 戦場を知らない君と最前線で戦ってきたあたしとはそれぐらいレベルが違う」

 もともと、孤児院『猫の手』は王都になかった。

 だから、ホーリーフレイムの襲撃のことなどはランドにとって耳で聞いたり、街に残ってるそのときの傷痕でしか知らない。

「ルミエがその呪具を君に渡したのは、戦う力を貸すためかもしれないけど、覚えておきなさい。

 最低限の基礎や実力があってはじめてフェイントは効果を成すものよ。

 まだ、君は若いんだからもっと強くなれる。それはあたしが保証してあげる。

 呪具の使い方そのものも悪くなかったし」

「えっ」

「ただ、馬鹿正直なのとコンボを繰り出すにはパワーもスピードも足りな過ぎるだけ」

「なーに、子供相手に説教たれてんのよ」

「えっ?」

 後ろを向けばルミエが立っていた。

「る、ルミエねええええちゃーーーーーーーーーーーん」

 ルミエを見て説教されてたランドが堰を切ったように泣き始めた。

「ま、強くなったらいつだって相手してあげるわよ」

「ん、あんた大人げなくこの子ボコボコにしたの?」

「あー、何があったかは夕食のときに話すわよ」


 その後、杏が中心になってつくったカレーを食べて城へ帰っていった。


 そして、城で祐一にあったこと、特に孤児院の現状を報告してると、

「杏、お前面倒見いいな」

「あら、祐一ほどじゃないけど?」

 手元にトゥ・ハート王国にいるリリスから送ってきた手紙を大事そうに抱えてる祐一にニヤニヤと笑みを浮べながら言う。

「しかし、休日も仕事みたいなもんだったな。なんだったら、次の休日早く入れてやろうか?」

 杏を気遣って言う祐一に対して、

「あら、十分休めたわよ。忙しくて街を見て回ることができなかったから楽しかったわよ。それに、」

 その表情は満面の笑みで、

「あの子たちを守るためにもあたしたちは勝ち続けなきゃいけないから」

あとがき
どーも、まったれと申すものでございます〜
他人の文章を真似するのは難しい。
正直言って無理です(汗)
キー学と神魔で書くか、
書くなら誰にスポット当てて書くかとさんざん、迷った結果
(実は音夢とアイシアにスポット当てたのを書き始めて結局ボツにしてる)
アニメも始まって絶好調のCLANNADから私の愛する藤林杏に焦点を当てて書いてみました。

最初は杏に孤児院『猫の手』でお料理させることが目的だったのですが、
(キャラ紹介で料理の腕について触れられてるのに作中でまだ生かされてないので)
いつの間にやらこんなカオスに……。

呪具については茜の『水は集まる』呪具についてよくあるものって描写があったので、
これは料理のネタに使うしかないだろうと思って即採用。
ただ、料理描写をもっと凝ったものにしたいとあんな風に(汗

ますます面白くなって行く神魔戦記それから、集まれ!キー学園どちらも応援してます。