遠坂凛の憂鬱
2月2日
―THE Third Days―evening―
そこに、彼女はいた。
大きな屋敷からグフが飛び出して来るのを、足のようなものにもたれて見ていた。
その足は、重騎士の鎧のようにごつく、そして赤かった。
「ねぇシャアちゃん、これってやばくない?」
少女は、その足に向かってそんなことを言った。
「MSの性能の差が戦力の決定的な差ではない!」
声は、足よりももっと高いところから聞こえた。
「・・・はぁ・・・それって、遠まわしに私に頑張れってこと?」
「・・・すまない、言ってから自分で後悔した。」
「そうよね〜それじゃシャアちゃんが中にいるMSよりも弱いってぶっちゃけてるようなもんだものね。」
「なぁ凛よ・・・その「シャアちゃん」はやめてくれないか?」
「なんで?シャア専用ザクなんて呼んだらあんたの正体バレバレでしょ?好きなように呼んでくれて構わないって言ったのはあんたじゃない。」
凛と呼ばれた少女は、腕を組み、シャアザクの方を見ようともしない。こんなことを話していても、神経は屋敷の方に向いているようだ。
(はあ・・・そりゃあ好きなように呼んでくれと言ったのは俺だが・・・俺シャアザクだからなぁ。俺のこと見てわからないやつなんているのか?あげくシャアちゃんだなんて呼ばれたらバレバレじゃないか。
しかし、なんにしても今は中にいる新しいMSが先か。・・・・・・やばいっ)
「シャアちゃん?ぼーっとしてないで・・・」
凛がそう言い掛けた時、目の前で、轟音。
塀を飛び越え、鷹鳥のように一機のMSが舞い降りてきた―――
前を見るとそこには今までなかった、白い足があった。
そこにいたのは、聖杯戦争最強の能力を誇るMS、ガンダム・・・。
「凛!!」
その来襲はあまりにも一瞬、これでもシャアザクは索敵に優れるアーチャーのクラスを持っている。
そのシャアザクが、目の前に現れるこんなギリギリまで全く感知できなかった、それはそのまま、このMSの性能を物語っているといっても過言ではなかろう。
「あ・・・」
今まさにガンダムのビームサーベルが凛に向かって振り下ろされそうになっていた。
そうして、凛の意識は途切れ、彼女の聖杯戦争は幕を閉じ―――。
パイロットリンの憂鬱
1月31日
―THE First Days―
「はぁ・・・目覚まし時計の設定を間違えるとはね・・・。」
そうなのだ、昨日は魔力を沢山使ったから、今日は起きれないだろうと30分ずらしておいたのだ。
しかし、間違えて30分進めてしまったので逆にいつもよりやばい時間に起きてしまったのだ。
でも、走って学校に行くなんて、無様なことをするつもりはまったくない。
どんな時でも余裕を持って優雅たれ、というのが遠坂の家訓なのだ。
そう、うちは、歴代続くモビルスーツ乗りの家系なのだ。
起きたのが遅かったから、準備もそこそこに家を出た凛だったが、そこに微かな異常を感じた。
・・・・・・・変ね・・・もう7時半だってのに人一人見ないなんて・・・。
まだ戦争は始まってないんだから、これは私には関係のない理由のはずよね。
って校門に着くと、どうやら部活の練習は始まったばかりの様子。
つまり・・・・・・逆に時計が一時間早くなってたみたいね。
そして、授業が終わり帰宅する。
今までは、学生としての遠坂凛。
これからは、パイロットとしての遠坂凛なのだ。
綺礼から、催促の留守電が入っていた。
フン、言われなくても遺言は解読できたんだから、今日、正確には明日の午前二時には召喚してやるわよ。
にしても、父さんもガンダニウム合金くらい残してくれればよかったのに。
MSは、自身を被う装甲によって引き寄せられる。
セイバーのクラスを持っているはずのMS、ガンダムの装甲はガンダニウム合金だ。
他のクラス・・・ザクとかグフならいいんだけど、ガンダニウム合金は宇宙でしか製造できないため、そう簡単には手に入らないのだ。
ま、いいわ。そんな触媒なくたって、私の操縦センスで呼び出してやるわよ。
「私が一番、ガンダムを上手く使えるのよ!!」
・・・・・・いっぺん言ってみたかったのよ。
そうして深夜、とうとう私の波長が一番よくなる時間になった。時計は午前二時を指そうとしている。
準備は整った、あとは―――
―――詠唱が終わり、目の前に光が満ちる。
・・・完璧だわ・・・・絶対ガンダムゲットだわ・・・。
ああ〜そろそろ目を開けても大丈夫よね・・・?
にやける顔を隠そうともせずに、目をムズムズさせている。
そして、目を開けた先に、MSはいなかった。
「はい・・・?」
そして居間のほうに高くそびえる赤いMSがあった。
「なんでよーー!しかも赤って・・・絶対ガンダムじゃないじゃない!」
もう・・・居間までの道が壊れすぎて扉を一つも開けずにあの赤いMSの所にたどり着いちゃったじゃない。
んで・・・私の召喚したMSは・・・
「私はシャア専用ザク、クラスはアーチャーだ。しかし、何故こんな所に私は召喚されたのだ?君は未熟者のパイロットではないのか?いや、そもそも本当に私のパイロットか?いや、質問ばかりで申し訳ない。しかしこのような召喚は始めてでね、そうだな、もし君が本当に私のパイロットなら、私は勝手に戦う。それでいいだろう?君は地下にでも隠れていてくれ。勿論そこで得られる利益は全て君に還元する。それなら文句ないだろう?」
・・・・・・あ〜お父さんごめんなさい。さっそくだけど令呪一つ使わせてもらうわ・・・。
思えば、これが私の聖杯戦争の始まりだったのよね。
「あんたのこと、なんて呼べばいい?」
「好きなように呼んでくれ。」
「あっそ、じゃ、シャアちゃんね。」
「なっ・・・」
あの時のあいつの顔、面白かったなぁ。MSに表情も何もないんだけど。
2月1日
―THE Second Days―
「ふむ、ふむふむ」
「何よ?」
「いや、紅茶の感想を聞こうと思ったのだがね、その必要はなさそうだ。」
「――――――っ」
あの時の紅茶は、本当に美味しかったわよ。
「ここは我らでいう、固有結界に近い。」
「へぇ、あんたがそんな言葉知ってるなんて、意外ね。」
「・・・君は他人を過小評価する傾向がある。他のパイロットと対峙した時にそれはやめてくれよ?」
こんなことなら、始めからあんたに乗り込んで向かえばよかったわね。
2月2日
―THE Third Days―morning―
「凛、そのパイロットがマスターになってないとどうしてわかる?」
「だってそいつ、マスターになれるだけの技量ないもの。」
あんたの忠告は正しかったわね・・・。
「やめてよね・・・なんであんたが・・・。」
「これは私の大切な・・・大切な・・・だからなんだってんのよ、ばか。」
「ああ・・・やっちゃった・・・。」
助けた相手のMSに殺られるなんて、やっぱり私は大事な時にポカしちゃうのよね。
「・・・・・・まいった。確かに君は、私のパイロットに相応しい。」
「MSに乗り手を選ぶ権利なんてないけど、なんでよ?」
「言うまでもない、君はニュータイプだからだ。」
「あっそ、貴方が言うなら世辞ってわけじゃなさそうだし、素直に受け取っておくわ。」
何よ、ニュータイプは最強じゃなかったわけ?
2月2日
―Third Days―evening―
そして私は、この白いMSのビームサーベルで舞台から降ろされるってことか・・・
「凛!!」
死を覚悟した凛の前に、赤いMSが立ちふさがる。
しかし遅い。
この間合いではシャアザクのヒートホークも取り出せない。
せめてもの抵抗に腕を出すが、ジオン系のヒート装備ならともかくビームサーベルにそんなものはなんの障害にもならない。
一閃
シャアザクのコクピット部分が切り裂かれる。
「え、シャアちゃん・・・?」
「搭乗もせずに敵陣に乗り込むとは・・・油断ですね。とどめです。」
ガンダムの、返しの二閃目が放たれる。
「―――シャアちゃん、消えて!」
・・・・・・突っ込み入れたければ、入れればいいでしょう?
ガンダムの二閃目は空振りする、しかしそれを意にも介さず今度は私に追撃してきた。
「舐めるな!」
スカートの中から愛銃、デザートイーグル50AEを取り出し、狙いもつけずにぶっ放す!
人に扱える武器の中では最強クラスの銃よ・・・倒せないまでも、足止めくらいには・・・
ならなかった。
当たった西瓜を霧にするほどの弾丸も、強力なガンダニウム合金の前には弾かれるしかなかった。
なんて強力な対弾性―――このMSには対人用の武器なんか通用しない!?
―――あ、ダメだ。
武器は通じず、シャアちゃんという守りを失ったわたしに、このMSを止めることはできない。
辛うじて一撃をかわしたものの、それでおしまい。
夜空を見上げる。
そこには、無様に倒れこんだ私に手を下す、冷徹な死神の姿が――――
「――――な。」
風が吹く。
曇天の切れ目、螺旋の空に月が覗く。
降り注ぐ月光と、額のアンテナがよく似合う顔立ち。
それがグフを逃げ帰らせ、私のシャアちゃんを一撃で倒し、こともなげに50AE弾を無効化した、MSの姿だった。
「今の射撃は見事だった、
白いMS・・・Vのアンテナ・・・
「だが最期だ、シャア専用ザクのパイロットよ」
突きつけられたビームサーベルが煌めく。
―――その死の間際で理解した。
確証もなく一目で判った。
これが私の欲しがってたカード、
一年戦争中最強と言われる連邦の英雄。
これで、遠坂凛の聖杯戦争は終わる、三日で終わる。
残るのは、屈辱と後悔しかないだろう。
―――だと言うのに、私は何も感じていない。
瞬きの後、確実に殺されるというのに、またも見惚れていた。
そうだ、悔しいといえばそれが悔しい。
でも仕方がないとも思う。
―――私を殺す最強のMS。
ジオン軍が「白い悪魔」と呼称するのも解る。
その姿はただ無常で、際限なく無骨で、その、悔しいくらい、格好よかったんだから――――
あとがき
神無月さん20万HITおめでとうございます。
何か書こうと思った結果、以前書いたやつの遠坂編を思いつき、一気に書き上げてしまいました。
読んでくれた方は衛宮編からのシキの文章の書き方の変化とかも見てくれると嬉しいです(いや、何も変化してないんだったら別にアレなんですけど・・・w)
補足・デザートイーグル50AE(アメリカ製)
全長270mm
重量1990g
銃身長162.mm
装弾数8+1発
弾丸50AE(アクションエクスプレス)
色々な意味で最強のハンドガン。命中したスイカが霧になるほどの威力。
しかし、反動がきついため、たとえ冗談でも日本人の少女が持つものではない。
一応、負担を減らす処置はできるのだが威力が落ちるため、凛は幼少時からの訓練でスタンダードにこの化け物を使うことができる・・・らしいですw