EXCERION  
    〜闇を抱えし者の軌跡〜  


    プロローグ





  爆音の響く中、少年はそのちいさな命の灯火を消そうとしていた・・・
 思い描くもの・・・それは家族でも友人でも、愛する者の姿でもなかった。

  今の彼を解放する唯一の存在、すなわち「死」そのものだった。
 

  「やっと開放されるんだ.....この地獄から....」


地獄-----あらゆる拷問を受けさせられそして消滅していく世界。
      
  少年は今の自分の状態をそう表現した。たしかに今までの状態を表現するな
ら
 その言葉ほど的確な表現はないだろう。彼はそれほどまでに酷い仕打ちをうけ
たのだから......


    〜クリムゾンEMCP〜

  これが、彼を地獄の生活に引きずり込んだ張本人である。EMPCつまりM
C(マシンチャイルド)を超えるもの、

    ーExceed Machine Child Projectー  
を目的としたものである。

  元来の電子系・頭脳系統が極めて発達したMCをさらに強化し、それらに加
え肉体までも強化した
 人の域を超える存在をつくりだそうとしていたのだ。


  
  「あれから何日たったっけ....」


  思い出したように少年は嘆いた。仲のよかった家族が火星から地球へ行くと
いうので、
 空港まで見送りに行った帰りにそれは起こった。


  〜〜〜〜
  
  『おじさんたちは?』
  
  「君が相沢祐一君かい?」
  
  『そうですけど、何か.......』

  「.....確認した。これより目標を確保、後に第3ラボへ移す。』

  『なにを......うっ....』

  〜〜〜〜


  目が覚めたとき、そこは白い部屋だった。それからの日々は前に語ったよう
に地獄であった。
 数々のナノマシンを注入され、寝る間もおしんで実験が繰り返された。反論は
許されず、ただ
 そこにあるものをこなす事を要求された。そして......徐々に少年の体
は壊れていった。


  「.....せめて一度...一度だけ月が見たかったな」

  
  火星にいたため、地表から月を見上げたことのなかった少年はかつてテレビ
で見た月の光景を思い出していた。
 しかし、聡明な少年はこの願いが叶わないことを知っている。自分はもうすぐ
死ぬのだから......


  そう........

 
 『奇跡』が起こらぬ限り........



  かつて見た月の姿を思いながら少年は静かに眼を閉じた。今まで自分が見た
中で最も美しい光景を
 脳裏に焼き付けんがために.......だが、


  ーードゴォォオオン!!!--


  一際大きな音がして、その作業を中断させられ、何人かの男たちが部屋に入
ってくるのが確認できた。



  「おじさんたちは......?」



  なんとかこの言葉を発信したが、この後一番前にいた男から発せられた言葉
は彼からさっきまで焼き付けようと
 していた光景を忘れさせるには十分なものだった。



  「相沢祐一君......ですか?」



  少年は恐怖した。

  ここでYesと応えればまた自分は地獄に帰らなければならないのではと。

  しかし、今の自分にこの状況から逃れる術もないことも十分に理解できてし
まっていた。



  「おじさんたちは......?」



  そう、彼にできることは聞くしか術がなかった。最も返答によらず、できる
ことはほとんどなかったが。
 しかし、先ほど問いかけてきた男から発せられた言葉は、
                      


  「あなたを助けに来ました...祐一君」











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