俺は保奈美に連れられて居間らしき所についた

「ほら、あそこで戦っているよ」

衝撃波らしきものでビリビリいっている窓の外に見えたものは…………天へと立ちのぼる渦だった。







     双翼の奏でる鎮魂歌


      第二話 聖霊の力







「小雷(ショック)」

「溶岩の撃ち込み(ラヴァ・スパイク)」

智ちゃんの指先から発生した雷と、わたしが出した溶岩弾が中空でぶつかり合い、衝撃派を残して霧散した

「どうした?あなたの力はそんな物なのか!?」

「なら、これならどう?火山の鎚(ボルカニックハンマー)」

「まだだ!まだ弱いぞ、さやか!感電の弧炎(ガルバニック・アーク)」

こんどはわたしが天から火の奔流を当てようとしたが、雷を纏った智ちゃんの剣ではじかれた

行き場を失った炎は離れた地面にぶつかり、爆発した

「まだまだいくよ〜!溶岩の斧(ラヴァ・アックス)」

わたしの足下から溶岩が五本の線となって唯一の対象へと向かう。相手の出方をうかがう前に再び魔力を集め始める

「だいぶ強くなってきたな。ならば、これを受けきれるか?電撃(バイヴォルト)!!」

それに対して智ちゃんは右手を突き出す。何をするのか!?と思い、キャンセルしようとしたその時、五本の指より雷が発生。わたしの溶岩をすべて相殺した

「認めない!認めたくない!これなら……軽減なんてさせない!!」

「言葉が違うな。私がしているのは軽減ではない。相殺だ」

智ちゃんは冷静に言う。それが更にわたしの怒りを仰いだ

今までで残った魔力を解放。わずかな魔力を残し、他をそれに乗せて放つ

「うるさい……。うるさい、五月蠅い!ウルザの激怒(ウルザズ・レイジ)!!」

十本の炎柱が螺旋を描きながら智ちゃんに向かう。と同時に周りから少し魔力を集めて残ったものと合わせ、集中する

「時よ 我に魔なる力の安らぎと休息を与えん 早摘み(アーリィハーベスト)」

小さく詠唱してその魔術を使うと、魔力が戻ってきた。否、未来から前借りした

これを使うとしばらく魔力が回復しないけど……それだけの価値はある

「その魔力……次で最後の一撃だな!さやか…受けてたつ。雷電怒濤(ライ・オット)」

智ちゃんがそう言うと、彼女の前に雷球ができた。一瞬の後、そこから無数ともいえる雷が発生し、わたしのウルザの激怒と相殺した

それを見届けた後、何を思ったのか彼女は話しかけてきた

「なぁさやか。最後くらいは派手にいかないか?」

それは暗に最大の魔術を出し合おうと言っていた

まずは一度深呼吸。心を落ち着かせる

魔術師たるもの常に冷静であれ……か。反省しないとね

わたしは少し考えた後、出来うる限りの笑顔で答える

「……ふぅ。……そうだね。いいよ、やったげる」

そう答えると、智ちゃんはふっと微笑んだ

しかし、次の瞬間。表情を無くし、この戦闘で初めて詠唱した

「ジ・エーフ・キース 神霊の血と盟約と 祭壇を背に 我聖霊に命ず 雷よ 落ちよ」

それに合わせるように、わたしも始める

「ゲヘナの爆炎よ 其に命を与え賜う 阻むもの無き魔の炎にて 彼の者を焼き尽くせ」

智ちゃんの周りには電磁場ができ、わたしの周りはどんどん温度が上がっていく

一瞬の後、わたし達は共に口を開いた

「これが私の最大の雷(いかずち)だ!轟雷(テスラ)!!」

「持てるすべての魔力を込めて!悪魔火(デーモンファイア)!!」

わたし達の魔力が世界に干渉してその効果が発現する

わたしの魔力は巨大な火球へと姿を変え、智ちゃんに向かう

智ちゃんの魔力は天へと昇り、周囲が暗くなってきた。どうやら、雷雲を呼んで活性化させたらしいね

「こんなものでっ!」

そう言ってまだ雷を纏っている剣を振りかぶり、火球に斬りかかろうとする

そのとき、わたしは自分の口の端が緩むのを自覚した

「……っ、なにっ!?」

その言葉が発せられる直前、火球に変化が起こった

火球が途中から裂け、まるで悪魔が大口を開けているような姿に変わったのだ

悪魔火は智ちゃんを包み込まんとその口を開けて迫る

ちょうどその時、智ちゃんの魔術の効果が発現。空に黄色い光が迸る

「くっ!!」

「ア、地防護(アースシ)……きゃああああぁぁぁ!!」

二人の魔術が着弾するのはほぼ同時だった……と思う

わたしは構成の途中で魔術を受けたので、受け流すことができなかった

はは……もう動くことができないよ……

痺れた体のまま、炎のドームができている方をみる

これなら大丈夫だよね……と思ったその時、小さく詠唱が聞こえた

「……来たれ 天の竜」

その直後、ドームの天頂から小さな竜巻が発生。それはすぐに大きくなり、火のドームは霧散。あたりには赤い花びらが舞っていた

それを美しいと思ったが、すぐに自己嫌悪。同時に絶望する……

勝てない……と

「本当に人間族にしてはよくやった。しかし、これが属性より生まれた私たちの力だ」

目が霞む。もう立っているのも辛い。智ちゃんの言葉が聞こえずらい

「これは貴女へのせめてものはなむけだ。楽しかったぞ……気裂(ディエン・ティアー)!!」

その声がした数瞬後、わたしは衝撃と同時に宙に浮かぶ浮遊感を感じ、意識を手放した




……………………




私の使った魔術の影響だろう、まだ辺りには砂埃が舞っている

さやかは強かった、まさか轟雷まで使うとは思わなかったな

少し考えながらさやかの方に歩いていく

いくら気裂とはいえ、衝撃波だけにしたはずだから大丈夫だろう…………多分……

……大丈夫だ。うん

砂埃の中心部に大分近づいてきた。その瞬間、空気の異変を感知する

『迅』

その言葉を聞いた瞬間、足下を払うかのような鎌鼬が私を襲う

私はとっさに跳躍してそれを避ける……が

「なに!?」

跳躍の頂点。そこで向かって再び鎌鼬が襲いかかる。対してこちらは空中なので体制が整えられない

私は後転するために体を反らす。その際、足先に風を集約させる

そして実行

「はっ!!」

くるん

と一回転。私も風により鎌鼬を発生させる

相手の鎌鼬は真っ二つにしたので、何とか大丈夫だ

数瞬後、着地した私は鎌鼬の飛んできた方向へ目を向ける

そこには一人の男性がさやかを抱えて佇んでいた

「さすがだな」

私は見覚えのあるその男性だが警戒を緩めない

間違いなくさやか達と一緒に落ちてきたやつ。相沢祐一だが、なぜか本能が警鐘を鳴らしている。敵にはするな…と

「おーい、保奈美。そっちに投げるぞー」

なにを言っているのだろうか、この男は。保奈美がそんなことを聞くはずがないだろう

「うん。いいよー」

なにっ!?短い付き合いだがあの保奈美とは思えない言葉だ。それほどの男なのか、こいつは

「せー、のっ!」

ブンッ!

本当に投げたぞこいつ、大丈夫なのか?後ろを向いて保奈美の目を見る

それを見て私は驚愕した。迷いが無いのだ。完全に祐一を信用しきっている

フッ……

思わず笑みがこぼれる。少し……この男に興味がわいた

「浮遊落下(レージェント)」

後ろから声が聞こえた。足が地に着いているというのになぜそれを使うのだろうか?

私の記憶が正しければ、効果は自分の周囲で、ただゆっくりや落下するだけの魔術だったはずだ

そこまで考えたとき、さらに声が聞こえた

「VOICE(ヴォイス)!!」

「なっ!?」

本日三度目の驚愕。先ほどの浮遊落下の魔術が祐一の周囲からさやかの所まで飛んでいき、普通に効果を発揮した

そのままゆっくり落下し、保奈美の腕の中に収まった

「そのまま寝かせておけ」

「はい、了解しました♪」

保奈美はそのまま軽いやりとりをすると私の家の中に入っていった

「さて、坂上智代……だったな?」

不意に私の名前を尋ねる。いや、確認か。保奈美にでも聞いていたのだろう

特に隠すようなものでもないので「そうだ」と短く答える

が、そのあとに四度目の驚愕が待っていた

「ここが聖霊界であり、ネイの兼族であるお前なら知っているだろう」

「〜〜っ!」

普通の人間ならば知らないはずのことをこの男は知っている

…やはり危険、か……

そんなこっちの思惑も知らないのだろう

おもむろに左腰の刀を抜くと、私に向けて次の言葉を発した

「教えてもらおうか、聖霊王──バハムート殿への道標(みち)を……」




to be next...

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 あとがき

第二話を書きました

オリジナルの固有詠唱をつけるのは難しいですね

魔術の詳しい解説は用語集を見てください。簡単なのを下には載せておきますが……



現代魔術……一番新しく体形化された魔術。      詠唱は各属性それぞれ決まって
      いる

古代魔術……ウルザ兄弟の衝突前に使用され
      ていた魔術。現代魔術より一段      階威力が高い
      (古代初級=現代中級)

暗黒魔術……最終予言戦争(アーマゲドン)
      以前まで使われていたもの。上
      の二つに比べて威力は格段に違
      う

構成魔術……現代魔術の派生。魔術の構成を
      いくつかの印に分け、魔力を流
      すだけで発現できるようにした
      もの



こんな所でしょうか……何か質問があればメールをください