とある街の外れ、そこには一人の少女がいた

「……!………、……!」

彼女の動きは端から見ればかなり不可解な動きである

なぜならば急に横に飛んだり後ろに飛んだりしているのだから……

「……っ、は!…シッ…、…!」

しかし、見る人が見れば敵を仮想しているのが分かる

その行為も二十分ほど続けたとき、彼女から12、3メートルほど離れたところに異変が起こった

──ドスッ、ポスッ、トサッ──

そんな音がした直後、彼女は跳び退いて音がした方を警戒していた

まだ土煙が立っているが良く目を凝らすと三つの影が少しずつ離れて存在していた

(あれは……なんだ……?)

警戒しながら少しずつ近づいていく

そのとき、とたんに風が吹いて煙が晴れた。そして、そこにいたのは……

「……人間……か…?」

そこには薄青のローブを着た少女と手に細剣を持つ少女、そして銀髪で腰に刀を携えた少年が倒れていた




     双翼の奏でる鎮魂歌

第一話 雷より生まれし者とおてんこ娘?




「……んっ、くぁ……ん?」

眠っていた意識を起こし、目を開けてみるとそこは……

「知らない天井だな……」

全く知らない場所だった

このままで居ても仕方がないので上半身を起こして周りを見る

ドアの傍に見慣れた顔があった

「祐君、いつもそれ言ってない?」

そこには俺の作った団体──『ルシフェル』の一員である少女がいた

こいつの名は藤枝保奈美。ルシフェルの中では基本的に後衛に位置する人物だ。
彼女は攻撃・補助・回復の全てをこなす魔術師で、チームの中では『最後の良心』と呼ばれる程の常識人でもある

「保奈美か、他の奴等はどこにいる?」

「わからない……。多分途中ではぐれちゃったんじゃないかな?他にここにいるのは、さやかさんだけだよ」

俺──相沢祐一の問いに対して暗い表情をしながらも答えてくれる

「そうか……。で、ここはどこだ?フィレに飛ばされたのだからフォシル大陸ではないんだろ?」

俺は寝ていたベットから腰を上げながら聞く

俺達はフィレの最後の悪あがきである、空間転移をかけられた。
恐らくは亜空間に閉じ込めようとしたんだろうが魔力が足りなくて固有世界に飛ばされたと言うわけだな

「ええと、先に言っておくけど驚かないでね?」

「…?…ああ」

もったいぶる保奈美を疑問に思う

別な世界にでも飛ばされたんだろうな。ラヴニカ辺りか?

「ここは聖霊界って言うんだって」

あれ?なんか聞いたことのある世界だな……

「精霊界?」

「うん、智代ちゃんの話だと精神の霊──精霊の中でも特別力の強い存在。それを聖なる霊……聖霊って言うんだって」

なるほどな、しかしどこの次元だ?

……考えていても仕方がないか

「ともかく、ここにいたんじゃ何も分からない。その智代って奴に会わせてくれないか?」

「うん。確か…今は裏でさやかさんと模擬戦をしているはずだよ」

俺の質問に回答するのに二秒とかからない。……これ以上完璧な女性っているのか?

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俺は無駄な思考を巡らせながら保奈美の後についていった

驚愕の光景が待っているとも知らずに…





わたしは自分が強いと思っていた

ううん、わたしは一般的な視点から見れば異常なほどに強いはず

だってわたしは黒白の魔女とも呼ばれたんだから

なら…なら何で!?何でこの子に当たらないのよ!!

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「ふん!」

ザッ!!

鋭い左足の踏み込みから円を書くような薙ぎが放たれる

わたしは後ろへ少し飛ぶと共に牽制の魔術を放つ

ギトゥの火(ギトゥ・フレイム)

「五月蠅い!」

気合一発。智ちゃんの前に雷が落ち、魔術は打ち消されてしまった

「えっ?っっ!…か…はぁ……」

わたしはその出来事に一瞬、呆然とした

それがいけなかった

一瞬だけでも気を抜いたわたしのお腹を鋭い衝撃が襲い、五メートルくらい吹き飛ばされる

素早く空中で体制を立て直し、智ちゃんの方を見ると、先ほどの場所から動いてなかった

その空気を見て納得し、静かに…語りかける

「次で…終わろっか?」

すると彼女は一言だけ…

「……ああ」

と答えてくれた

わたしは嬉しくなって口の端っこをつり上げて笑う

そして最後の攻防に向けて今までとは少し質の違う魔力を練る

「光の園 その場所は無の力によって 満たされん 我にそこに漂いし 永久なる魔の力を貸し与えん」

「花盛りの春(ヴァーナル・ブルーム)」

「その心臓たる大樹カーラーンよ その鼓動を聞く者はここにあり」

「春の鼓動(スプリング・ハートビート)」

待ってくれるらしいので、連続式起動詠唱(ピッチスペル)ではなく普通に詠唱して魔力増加の術を組む

一応追加の式も組み、相乗効果で合計四倍近い魔力となった

「なるほど……それがあなたの本気か……」

智代は感嘆の息をあげ、一息置くと

「ならば、私もそれ相応の対応をしよう」

ブァッ!!

「これは…風!?何で?智ちゃんは雷属性じゃ……」

「水と氷、火と地のように風と雷も友好的な関係にあるんだ。雷の聖霊である私に風が味方するのは当然のことだ」

わたしの言葉を遮るように智ちゃんが言う

「そっか……そうだね♪じゃ、どっちが勝っても恨みっこなしね?」

私は出来るだけ軽く相手に返す

……でも、本当は冷や汗ダラダラだよ。だって聖霊ってだけで手強いのにそれが二属性?ふざけるのも程々にして欲しいよね……

「ふふ。あなたは本当におもしろい人だな。戻ったら何かご馳走しようか?」

女の私でも見とれるような穏やかな笑顔で言われた……う〜、不覚

でも戦っていて気持ちのいい相手だね♪うん、そうなったら頑張ろう!

「うん、ありがたくご馳走になるよ。でも、今は…………ね?」

私は自分の高められた魔力を相手に誇示するように軽く両手を広げる

それに対して智ちゃんは微笑みをもって返してくれた

「うん。…いち早い決着を……だな?」

私は軽くうなずいて返す。それを皮切りに互いの魔力が更に高まった

「……」

「……」

互いに動かない。何かきっかけがあれば……

その時……

カラカラカラ……

小さな音、でも……それで十分!

「溶岩の撃ち込み(ラヴァ・スパイク)」

「小雷(ショック)」

私と智ちゃんの間で魔力の唸りが生じた




to be next...

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 あとがき

はい、第一話です

主人公のはずの祐一君が全く目立ってませんね
次回はさやかと智代の魔術合戦になりそうです
剣による戦闘をお望みの方はしばらく待ってください。頑張ってスキルアップしますので……

それでわまた次話にて……