「試合をするぞ」

 いつものように寮の食堂で皆で夕食を食べているといきなり棗恭介が切り出した。

「はぁぁ!! いきなりだな」

 豪快にカツカレーを食べながら井ノ原真人は恭介の言葉に驚いている。

 真人だけじゃない、恭介の隣に座っていた直枝理樹も、その向かい側に座っていた宮沢謙吾も驚いていた。

 試合というのは、野球のことである。

 恭介の突拍子もない一言から始まったことなのだが、今では10人ものメンバーが集まり、毎日楽しくしている。

「恭介、試合するっていつ?」

 理樹は恭介の顔を見ながら心配そうに口を開いた。

「明日だ」

 その言葉に一同言葉を失った。



キー学オリジナルストーリー

 リトルバスターズVS古河ベーカリーズ




 明日は確かに日曜日で、梅雨も明けて晴れるといわれているけど、あまりにも突然すぎる。

「本当にいきなりだな」

 剣道着姿にお手製のジャンパーを着込み、謙吾は静かに箸をおいた。

「仕方ないだろ、昨日たまたま就職活動で歩いていてであった人と意気投合してな、野球が大好きな人だったから試合をしようって約束したんだよ」

 帰ってきたのが今日の夕方、つい数時間前のことだ。そのまま歩きつかれて眠って起きたばかりだというのに、元気に、そして楽しそうにしている。

 はぁ、と理樹はため息をはいた。

(恭介らしいよね)

 楽しいそうな子供。

 恭介とはこういう人間なのだ。
 
「こいつ、何も考えてないぞ」

 理樹の隣で猫に餌をあげていた恭介の妹、鈴が腕を組みながら言った。

 確かに、何も考えてないのかもしれない。

「それで、相手はどんなチームだ? 強いのか?」

 真人はその鍛え上げられた無駄な筋肉を震わせながら恭介に尋ねる。

「俺の筋肉たちが戦いたいと悲鳴を上げてるぜ!!」

「こいつバカだ!!」

「うるせぇ!!」 

 真人と鈴のお約束なやり取りを横目に謙吾は口を開いた。

「それで、恭介、どこのどんなチームなんだ?」

「ああ、その人がメンバーくらいすぐに集めるって言っていたからな、俺もよく知らないが、周辺の高校生を集めて作るらしい」

「それって、何もわからないって言うことだよね? 大丈夫なの?」

 鈴を見ながら心配そうに理樹は恭介に尋ねる。

「大丈夫さ、でもな、まずやることがあるだろ?」

 いつも見せてくれる頼りになる恭介の姿に理樹は頷き、鈴に声をかける。

「鈴、みんなを呼んできて」

 ちりーんと鈴の音がなり、鈴は走って女子寮にいる残りのメンバーを呼びに向わせた。

「ふふふ、面白いじゃないか……」

「ああ、謙吾もそう思うだろ?」

 未知なる相手に対して謙吾と真人も恭介と同じように楽しそうに拳を握り締めていた。

 数分後、食堂に6人の女子生徒たちが集まり、席に着いた。

「あの……恭介さん、どうしたんですか?」

 西園美魚は静かに集まったメンバーを見渡した。

「わふ〜〜、なにか楽しそうなことでもはじめるんですか?」

「そうだよね〜〜クーちゃん、恭介さんのことだからきっと楽しいことをはじめるんだよ〜〜」

 パタパタとかわいらしい笑みを浮かべながら能美クドリャフカと神北小毬は互いに顔を見渡した。

「恭介氏のことだ、また何かするつもりなのだろう」

 来々谷唯湖はいつものように落ち着いた様子で小毬とクドをみて笑っている。

「ああ、明日、試合をするぞ」

「それはそれでいきなりデスね、というか、さっきまで食堂のそばで死んでいたはずなのに元気デスね」

 三枝葉留佳は来々谷の隣でいつものように脈絡のないことを言っている。

「本当に、何を考えているのかまったくわからん奴だ」

 自分の兄のことなのに、鈴はバカにしたような言い方をしている。

「それで、みんなは明日予定あいてる? 恭介の思いつきの行動だから流石に無理強いできないし、無理なら無理って言ってね」

「おお、理樹君やっさし〜〜、はるちん、ほれ込んじゃいそう〜〜」

「こらこら葉留佳君、何を抜け駆けしているのかな?」

 来々谷はにこりと笑いながらコーヒーを飲む。

「い、いえ、姉御、滅相もない、はるちんそんなことしてませんから〜〜」

 全力でビビる葉留佳。

「ゆいちゃ〜〜ん、はるちゃんいじめたらだめだよ〜〜」

 そんな来々谷を小毬はにこやかに笑いかける。

「う、ゆいちゃんはやめてくれ……」

 来々谷は恥ずかしそうにしている。

「で、みんな、明日は大丈夫なの?」

 理樹は場を仕切りなおすようにみんなを見渡した。

 みんな特に予定はないと口々に言うのでホッとしたのか、目をつぶった。

 なんだかんだといってもみんな暇なのかも知れない。

 彼らはリトルバスターズ。

 元々は少年時代に恭介、鈴、真人、謙吾、そして理樹の5人の幼馴染で悪を倒すメンバーだった。

 だけど今は、恭介の提案で野球を始めて、小毬、クド、葉留佳、来々谷が参加し、マネージャーとして美魚を迎えた。

 それからというもの、何だかんだといって、騒ぐ時はこの10人で遊ぶようになった。

「まあ俺の筋肉で相手をぎゃふんといわせてやるさ」

「ははははは、何言ってるんだ、真人」

 真人の言葉に謙吾は大爆笑。

「なに? その、『お前の筋肉なんて対して役にも立たないのに、誇示するなんて暑苦しいとしか言いようがない』って顔は」

 真人の神業的言いがかりが始まった。

「まあ、確かにそうだな」

 謙吾もそれを認めた。

「バトルスタートだ!!」

 恭介の合図によって野次馬達が集まりだした。

「野郎共、武器を投げ入れろ!!」

「「「「「「「お〜〜〜〜〜〜〜〜!」」」」」」」」

 次々と投げ込まれるアイテムの中から二人はそれぞれ武器を握った。 

 真人はメリケンサック、謙吾は木刀……

「って、ちょっとまってよ、それはまずいでしょ!!」

 理樹は慌てて2人の間に割り込んだ。

「止めるよ理樹!! こいつは俺達にとってはちょうどいい勝負になりそうだ」

「ああ、ネコとかうなぎパイとかつめきりとか、青ひげとかまともじゃないもんばっかだったからな」

 木刀を握り締め、数回素振りを始める謙吾、その音はブンブンなどではなくビュビュとなっている。

 一方の真人もメリケンサックを指にはめ、軽く壁を殴ってみるとコンクリート製の壁がえぐれている。

「きょ、恭介、とめなくてもいいの?」

 理樹は最後の頼みの綱として恭介にすがった。

「ルール通りだからOKだ!!」

「そ、そんな、真人と謙吾が自分らの一番得意な武器で戦ったら少なくてもどっちかは明日の試合に出れなくなっちゃうんだよ? 恭介はそれでいいの?」

 そういわれると恭介はむ、と考え込む。

「そうだな、真人、謙吾、武器選択はノーカウントだ、やり直す」

 2人から武器を取り上げ、今度は野次馬達のほうを見た。

「お前ら、冗談でもこんなもんを投げ入れるな、食堂が使い物にならなくなるぞ」

 あくまでふざけて入れたのだろうが、正直しゃれになっていない。

「では、改めて……野郎共、武器を投げろ!!」

 再び投げ込まれるアイテム、ぱっと見る限り危険な武器は何もなかった。

「俺はこれだ!!」

 真人は床に転がっていたバスケットボールを拾い上げた。

「ならば俺はこいつだ」

 謙吾はテニスラケットを握り締め、構える。

「よし、これなら問題はないな」

 二人の武器を確認し、恭介は右手を上げた。

「バトルスタートだ!!」

 その言葉を皮切りに二人とも動きだす。

 真人の攻撃方法は手にあるバスケットボールを謙吾にぶつけること。

 謙吾の攻撃方法は手に握るテニスラケットのネット部分で殴ること。

「行くぜ!! ぬぅおりぁ!!」

 真人の全力スローでバスケットボールが投げられる。

「甘いな、甘すぎる!!」

 謙吾はそのバスケットボールを突進しながら避け、真人との距離を一気に詰めていく。

「甘いのは謙吾、お前だ!!」

「なに?」

 真人の言葉に不信感を感じたのか、謙吾の動きが止まった。それがあだとなった。

 謙吾の背後からバスケットボールが飛んできて、背中に当たった。

「グゥ」

 謙吾は突然のことだったので、何が起きたのかわからずひざを突いた。

「一体どういうことだ?」

「井ノ原のやつ、まさか超能力が使えるのか?」

「奴の筋肉とバカで奇跡が起きたのか?」

「違う違う、あいつが投げたバスケットボールが壁に当たってそのまま跳ね返ってきたんだよ」

 ギャラリーたちが勝負の評価に熱中している。

「ふ、どうだ謙吾!!」

「その程度でやられるものか!!」

 不用意に謙吾のそばまでやってきた真人の頭にテニスラケットを思いっきり叩き込んだ。

「きかねぇな」

「なら何度でも叩き込むまでだ!!」

 高速でラケットを真人の体に叩き込む謙吾、しかし、真人の鍛えられた体にそこまでダメージは与えれない。

「おりぁ!!」

 気合と共に投げられる真人のバスケットボール、

「ふん!!」

 謙吾はラケットを水平に振りぬき、バスケットボールを打ち返した。

「おお、流石に野球をしてるだけあるな」

 恭介が驚いた声を上げた。

 謙吾の打ち返したボールは勢いを失わずに真人の股間に激突した。

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 真人は男の急所を押さえながらその場に崩れこむ。

「決着はついたな」

 恭介が二人の間に割り込み、謙吾の手を握る。

「勝者、謙吾!!」

 謙吾の手を高く上げ、勝利宣言を行った後、真人のほうへと歩み寄る。

「真人、大丈夫か?」

「あん……しん……しろ、俺の……筋肉はそれ……くらいじゃ……へこたれねぇ」

「いや、そんなところ鍛えるの無理だから」

 理樹は慌てて真人のそばに駆け寄る。

「理樹、敗者に掛ける言葉なんてねぇ……」

 ふっと、笑い真人は目を閉じる。

「何かっこつけてるんだ? このバカは」

「人のいいところに突っ込みいれんじゃね〜〜〜〜よ!!」

「とりあえず、明日は朝早くから出発するし、少し遠いからな……移動手段は俺のほうで確保しておくし、各自しっかり休んで明日に備えてくれ」

 そう言って恭介は食堂から姿を消す。

「よし、俺は明日に備えて筋トレだ」

 復活した真人はダッシュで走り去っていく。

「待て、真人、俺も付き合うぞ〜〜〜〜〜〜」

 謙吾も真人の後を追って走っていく。

「あの2人の脳内の構造は一体どうなっているんでしょう? 井ノ原さんと宮沢さん……ポッ」

 何かよからぬことを考えているのか、美魚の顔が赤い。

「美魚ちんの頭の中のほうがよっぽど謎だと思うんデスがね」

(いや、その台詞はそのまま葉留佳さんにも適応されると思うけど……って何で僕は女の子に囲まれてるの?)

 女の子に囲まれた状態で理樹は一人、取り残された。

「リキ、これからどうするんですか?」

 クドは理樹の前に座ってにっこりと笑みを浮かべる。

「どうするって、別に部屋に帰って、明日のポジションと打順を考えないと、恭介のことだから何も考えてないだろうし」

「そんなものは明日の朝にでも決めてしまえばいい」

 来々谷が理樹の隣にすわり、体をくっつけてくる。

「というわけで、理樹君は今夜はお泊り確定デスね」

 反対側から葉留佳もくっつけてくる。

「ええええええええ!!! 何でそう言うことになるの!!」

「安心したまえ、きちんと今夜は準備もしてある」

 来々谷は有無を言わさぬ口調で理樹の右手を掴む。

「じゅ…準備って?」

 逃げろ、逃げるんだ、ここでつかまったら……あの悪夢が再び……やってくる!!

 心の中で必死に逃げ出すための言い訳を考えるが、まず動くことすらできない。

「ははは、何を警戒している? 大丈夫だ、前回みたいに女子の制服なんて着せるわけないだろ?」

 今度は、メイド服だがな、と後に続ける来々谷の言葉を聞いた瞬間、意識が途切れそうになる。

(ああ、こんなときに……でも、ちょうどいいかも)

 だんだんと音が遠くなり、意識が薄れていく。

「む、理樹くん、ここでいつものナルコレプシーを発動させられると後が大変なのだが……」

 来々谷の言葉も虚しく、理樹は眠ってしまった。

 豪快にテーブルに頭をぶつけているのにかかわらず……

「ん? 理樹は眠ってしまったのか?」

 小毬としゃべっていた鈴も理樹のそばに駆け寄った。

「どうするんですか? 井ノ原さんと宮沢さんを呼んだほうがいいのでは?」

「それはやめておこう、西園女史、君達の部屋に運ぼう。葉留佳君、そっちの肩を持ってくれ」

 理樹を抱えて皆は女子寮へと向っていった。


 
 
 古河パンの店の前で秋生は電話をしていた。

「おう、というわけだ、お前ら明日の朝、うちに来い、頼んだぞ」

 電話を切りタバコに火をつけた。

「ふ、面白そうなガキだったな、明日が楽しみだ」

「お父さん、どうしたんですか?」

 店から渚が顔を出した。

「ん、明日野球をするんだよ、岡崎もくるからお前もくるよな?」

「本当ですか? それならお母さんにお願いして準備してもらわないといけないです」

「おう、そうしてもらえ、明日は盛り上がるぞ」

 子供のような笑みを浮かべながら、秋生は携帯電話をしまい、タバコをふみ消した。

あとがき

 リトルバスターズ完全攻略完了記念、

 リトルバスターズVS古河ベーカリーズ(キー学仕様)を勢い任せでかきはじめたのはいいものの……

 メンバー考えてねぇ!! その上、人数が多すぎて無茶苦茶メンドクサイ〜〜〜〜。

 個人的感想では、CLANNADとリトルバスターズのキャラって結構そっくりな人が多いんだよな……