第三話「衝突」

ストンッ

声と共に、彼女が俺の腕の中に落ちてくる。
まあこれも演出の一つのつもりだった。
力加減を考えて、丁度真上に放り上げる形にしたからだ。
落ちてきた彼女は死んだと思っていたようで、硬く目を閉ざし震えている。
朝霧「はぁ・・・おいっ、誰が殺すと言った?まだアンタは死んではいないぞ?」

エスペリア「・・・・・え、きゃ、きゃぁ!?」

彼女はそう言われると、辺りを見回して、俺の腕の中に居ることを理解する。
理解すると共に、彼女は真っ赤になって暴れだした。
どうやらよほど男に縁が無かったのだろうか・・・
俺が抱きかかえている状況で、頬を赤く染めていた。
ふと思っていたが、目の前から突然殺気が来る。
瞬間、彼女をまだ抱きかかえたままで、身を後ろへとバックステップさせた。
刹那

ヒュン

目の前を一本の大剣がすり抜ける。
朝霧「・・・・・おいおい。俺は命はまだとってないぞ?それに、だ。俺は刀を下げている。イコール、戦意ゼロだぜ?」
ため息と共に、嘆息する。
この世界自体がかったりくなってきた。

アセリア「エスペリアを・・・放せ。」

声は小さかったが、かすかな怒りが見える。
だが、一瞬俺は彼女の瞳を覗き返した。
生気が・・・無い。
どうやら、彼女はギリギリの部分まで、闇に侵食されているらしい。
これまた新たな課題に、嘆息した。

朝霧「・・・お前に言われなくても放すつもりだよ。ったく、何もしないのに・・・・・」
ストッ

手から開放して、彼女を自由にさせる。
やっておいてなんだが、意外と彼女の体自体には、それほどダメージは無かったようだ。
だから、俺は一応は安心した。
朝霧「さて、と・・・大丈夫だな?」
エスペリア「え・・・」
朝霧「まあ立てるくらいだから大丈夫だろう。まぁ・・・その、なんだ。怒りに身を任せたとは言え、女性を傷つけてしまった事には代わりは無い。そのことだけは謝る。すまない。」
エスペリア「は・・・はぁ。」
朝霧「まぁ峰なんだし、許してくれ。」
エスペリア「貴方は一体・・・何を・・・?」
その質問を無視して、青髪の少女の前に立つ。
どうやら切りかかるようだから、取りあえずは受け流す構えは取り、問うた。

朝霧「これで満足か?アセリア・・・「アセリア=ブルースピリット」。青の色を持ち、アタッカーとして最重要のキャラ。神剣名、永遠神剣第七位『存在』。」
アセリア「エスペリアを・・・よくも、エスペリアを傷つけた・・・絶対に、許さない!」
ダッ

そんな彼女は一気に駆けてきて、その大剣を俺に向け横薙ぎにする。
だが・・・

キンッ

俺の剣。
永遠神剣である『正宗』で、軽々と彼女の剣を受け止めて見せた。
そんな行動に彼女は、驚愕で目を丸くした。

アセリア「!?」
朝霧「甘い・・・注釈として言うなら、今の俺は普段の1.5倍はテンション・ハイだ!そんな俺には、如何なる攻撃とて通じるわけがない・・・・・はず。」

鳳・不破「なぜに受け止められる!?」

鳳「テンション高くて止めれたら、普通は苦労しないよね!?」
不破「それよりも、物理的に不可能だよな!?」
朝霧「外野、とりあえず黙ってろ。」

鳳・不破「なんだと!?」

アセリア「くっ・・・やぁ!とぅ!」

キンッ・キンッ・キンッ・キンッ・キンッ・キンッ

すべての剣激を、右へ左へといなして行く。
俺の行動にか、傍目に見てもわかるほど、彼女は焦っていく一方だった。
アセリア「くっ・・・」

朝霧「・・・・・そろそろか。」
シュタッ

後ろへとまたもやバックステップをして、相手との距離を離す。
アセリア「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・」
当然、彼女は息が上がっていた。
要するに、だ。
戦いの主導権は、完全にこちらのほうに流されているのだった。
彼女も何度か自分の方に持っていく努力をしたが、無理だった。
経験では相手が上だが、どうやら力量は俺のほうが上らしい。
このままいけば、ますます彼女は焦っていくだろう。
そのたびに俺は、どんどん経験をし、体験をし、会得していく。
彼女の身体能力が下がるにつれ、俺の強さは上がっていく。
すぐにわかるような構図だ。
だが、それももう終わり。
理由としてあげるなら・・・

俺が、非常にかったりぃからだった。

朝霧「刹那!」
鳳「!?・・・な、なに?」
朝霧「俺が今から技を放つ。それと同時に、王にディスペルを掛けろ!いいな!?」
王「な・・・!?」
鳳「え!?ちょ、それはどういう・・・」
朝霧「時間が無い!行くぞ!」
確認を取らないまま、一気に構えを直す。
これから出す一撃を、繰り出すために。

王「奴を・・・奴らを止めろ!!!!」
一方では騒がしくなっているが、目の前に集中しているため聞こえてこなかった。

アセリア「はぁ・・・はぁ・・・ま、負けない。絶対に!」

朝霧「・・・一つ言っておこう。俺はお前ほど死や戦いを経験しているわけじゃない。それに・・・お前が何を背負って戦っているのか、俺は知らない。でも、そんな俺でも一つだけ言えることがある。」

アセリア「はぁ・・・はぁ・・・」

朝霧「戦いは精神すら関係してくる。己が強いと思えば、その分体もこたえてくれる。だが、己が諦めたり・・・投げ出したり・・・それこそ逃げると言った行動を取ったとき、体は言う事は聞いてくれはしない。」

アセリア「そ・・・それが・・・何?」

朝霧「心を・・・自分を強く持て。そして、自分は弱いと悟れ。周りを見て・・・自分は孤独じゃない、一人じゃないと理解しろ。そして勝ちをもぎ取るまで、絶対に諦めたりするな。そして・・・勝ちで傲慢にならず、おごらず、自らの負けを認めろ。そして・・・己が信念に打ち勝て。」

アセリア「な・・・なにを・・・!」

朝霧「俺の世界での好きな言葉だ。その言葉は、ある漫画・・・そうだな。簡単に要約するならば、本だ。そして、その本で登場する空想の流派がある。名を・・・『不動詠全・永門八派・御神流・小太刀二刀術』という。その流派で使われる、心構えだ。」

アセリア「はぁ・・・はぁ・・・」

朝霧「そして俺は・・・現実世界でできないこともできるようになっている。イコール?その技は俺にも、できる!」

御神流
奥義之弐
斜突


『御神流』
朝霧達が居る元の世界で、漫画の中に出ていた空想の流派。超高速からの剣激が特徴的で、近距離・中距離・遠距離ともに抜群の攻撃力を誇る剣術。主に速さを追求し、純粋に殺すことだけを考えられた剣技である。本来は二刀流で、使う刀は小太刀とされている。だが、ここで行った朝霧の剣技では、一刀流かつ長刀になっている。


『斜突』
御神流の奥義の1つで、遠距離技。一瞬で相手の目の前まで跳躍し、首、又は腹に一撃を突き立てる技。御神流の奥義の中で一番に匹敵する間合いを持つ。
実際は二刀流での超高速二連激。相手の腹部に突き刺し、その間に、腕、首を断ち切る技。


俺はあえて刃の方は向けずに柄で腹を狙った。

ズバンッ

彼女の腹に、柄からの強力な一撃を加える。
彼女が地面に倒れるその瞬間に、その魔法は炸裂した。

王「だれか・・・誰かおらぬのか!?」
鳳「ディスペル!!!!」

王に向けて、渾身の魔力が飛んでいくのがわかる。
その瞬間、変化が起きた。

王「ぐぉーーーーーーーーーーー!?」

王の体から、汚れた力が抜けていく。
程なくして、彼は地面に倒れた。

?「お父様!?」

横に駆ける王女。
アセリアは倒れたまま動かない。
周りでは緊迫した雰囲気の中


今・・・止まっていた歯車が回りだしたのだった・・・・・


第三話・完