白い部屋の中、少女が青年と向かい合って座っていた。

 青年の胸に手で触れ、目を閉じて集中している。

 数秒の後、体内の走査を終えて目を開いた少女―――栞は、目の前に座る陽司に笑みで語った。

「……はい。魔力回路異常無し。身体へのダメージも全て治りましたね。

 では本日を以って、退院とします」

 検査の結果を教えられた陽司は、感謝の意を込めて頭を下げた。

 しかし再び上げた顔は、不満顔。

「完治するまで病室から出る事も許してくれませんでしたよね……」

 陽司個人としては軽くでいいから身体を動かしておきたかったのだが、栞は頑としてこれを聞き入れなかった。

 外から見るよりも負傷が大きかったことと、魔力回路へのダメージがあった為だ。

 げんなりとしたように不満を口にした陽司に、栞も頬を膨らませた。

「二日目に『散歩くらいなら構いませんよ』って言って外に出したら、陽司さんいきなり走り出したじゃないですかっ」

 あの時は陽司も喜び、ついロードワークに出ようとしたのだった。

「ジョギングですよ、ジョギング。ちょっと王都を半周ほどしようと思って」

「散歩と言ったのに、走り出す人がいますかっ!」

「それを止める為に病人へ魔術を使う人もいないと思いますが……」

「あ、あれは陽司さんかなり速かったのでつい慌てて……」

「慌てて『水の弾丸』をブチ当てようとしたんですか。

 攻撃魔術はやめて下さいよ、殺す気ですか?」

「み、水属性は拘束系魔術が少ないんですっ! ちゃんと威力も抑えましたよ!?」

「威力を抑えた分が数に反映されてましたね。十発くらいでしたか」

 必死に弁解する栞に淡々と事実を返していく陽司。

 何を言っても墓穴を掘ることになるのを悟った栞は、がっくり項垂れた。

 最後にぽつりと一言。


「……『厄災の波濤』よりは良いかと思って」

「本気で殺す気だった!?」














 快復はしたが当分は過剰な魔力使用や疲労を避けるように、と注意を貰い、陽司は病室へと荷物を取りに戻る。

 陽司としても決戦の近い今、力を温存しなければならない。

 そもそも旅人とは常に動けるよう備えておくものだ。

 無理をするのは必要な時にしかしない。

『お帰り、ヨージ』

(ただいま、『無心』。首尾はどうだ?)

『うん、幾つか思い出せたよ。術式も完璧』

 頭の中で『無心』と会話しながら、陽司は寝台の脇にまとめられた荷物を持ち上げる。

 使った寝台周りの軽い掃除も含め、退院準備は既に済ませてあった。

 最後に壁へと立て掛けられた『無心』を腰に下げた。

(そうか、それは助かる。後で実際に試してみるか)

『すぐじゃなくて?』

 会話を続けながら、病室を出る。

 診察患者と擦れ違いの会釈を交わしながら、陽司は通りへと出た。

(ああ。先に向かう所があるからな)

 両手を上で組み、ゆっくりと身体を伸ばす。

 すっきりとした心身で歩き出した。

 その先には―――カノン王城がある。



































               とある守護者の追憶 第七話『変わる立場と新たな力』




































 カノン王城、中庭。

 二人の青年が向かい合っていた。

 片方は真剣な表情の陽司。もう片方は、

「カノン王。急な謁見、申し訳ありません」

「いや、構わない。こちらとしても早めに一度話しておきたかった。

 正式な謁見ではないしな。お前だけ特別扱いで割り込ませるわけにもいかない。

 ……それはいいとして、その堅い喋りはどうにかならないか?」

「今は、契約関係でも軍属でもない身故」

 だが陽司はそこで表情を和らげた。

「―――ですが、そうですね。こちらの方が俺らしいでしょう」

 そう言い、その場に片膝を突いて目を伏せた。

「先日の御無礼、改めて謝罪致します」

「理由を話せば許してやらないでもないぞ?」

「はい。それでは話させて頂きます」

 小さく笑い、息を吸った。

「……あの模擬戦は、俺なりのケジメです」

 そうして陽司は、語り始める。

「以前『これから』を決めた時、ふと思ったのですよ。

 ……自分の上にいる相手はどれほどの人物で、そして自分はどれほどの事が出来るのかと」

 これまで、自分は『生き残ること』と『強くなること』だけに集中してきた。

 それは旅の傭兵として必要なことで、旅の目的として定めた通りのことで、間違っていなかったのは理解している。

 それでも気になったのだ。

 自分が積み上げてきたものが、どれほどの高さになったのか。

 他者と比べて、どれほどの位置にあるのかを。

「相沢さんの周囲の人々からの評価や、実際に俺が見た人物像。

 かつて復讐に燃えていた頃から、どういう心境の変化で全種族共存を志したのかまでは知りません。

 ……ですが、今の貴方を見ていれば分かることがあります」

 視線を上げ、相手の目を見据える。

「相沢さんには、高い理想と、願う未来へと進み続ける力がある。

 どんな困難が待ち受けようとも。この世界全てを敵に回そうとも、貴方は自分の信念を曲げることは無いだろうと。

 だから、この国はこんなにも優しい。強く優しい人々が貴方の周りに集まっていくから。

 貴方が貴方である限り、例え今あるカノン王国が滅ぼされようとも、皆は貴方を助けるでしょう」

 腰から『無心』を抜き放ち、眼前に立てた。

「俺は、そんな貴方の信念を、それに助力する皆を、護りたい。

 護れるように、なりたい。

 ただ無心に強くなるのではなく、未来へと道を求めて進む人々を護るために強くなりたい」

 手に握る自身の相棒、『無心』を掲げる。

「お願い致します、相沢王。

 ―――俺を正式にカノンの軍属として頂けないでしょうか?」

「……お前は、何か目的があって修行の旅をしているんじゃなかったのか?」

 祐一が問うた。

「はい、あります」

 即答。しかし、

「修行は何処で行うにしても、いつ終わるか分からないものです。到達点も漠然としてますからね。

 それならば此処に定住しても変わりはありません。

 今のカノン王国は戦乱の真っ只中。国軍となれば手練も多い。むしろ効率が良くなるくらいです」

「自分の望む強さが手に入れば去る、ということか?」

「ええ。今の所の目標は、全力の相沢さんに勝つことです。それを達成したら別の場所へ移りましょうかね」

 さらりと言い切った。

 具体的に言えば、祐一の使っていた対消滅の剣。あれを正面から受け止められるくらいになるのが目標だ。

 祐一の莫大な魔力量から考えれば更なる切り札もありそうだが、そちらはひとまず保留としよう。

 対消滅の力は強大な破壊力を持つ。簡単に防げるものではないが、無敵ではないのは先日の戦いで分かっている。

 その返答に祐一は軽く目を見開いた後、くつくつと笑い出した。

「そうか。それなら陽司が去っていかないように俺も鍛錬しないといけないな」

「では―――」

「ああ」

 祐一は、改めて姿勢を正した。

 陽司も応じるように表情を引き締める。

「天海陽司。貴君を正式にカノン軍属とする」

 下された言葉。

 陽司は深く頭を垂れた。

「拝命致します―――陛下」

「配属先は、決まり次第部下を通じて知らせる。

 居寝室はこれまで使っていた城の一室をそのまま使うといい。不在の間も手入れはさせてある」

 その言葉に、陽司は顔を上げて苦笑した。

「……やっぱり、お見通しでしたか」

「あんな事を言って、別の国へ行くなどと言い出したらそちらの方が驚きだ」

「本当は模擬戦で負けた後にすぐ申し出るつもりだったんですがね」

 立ち上がり、裾を払う。

「その場で昏倒した上に、病人として軟禁されるとは予想外でした」

「栞か。あいつは病人の事となると頑固だからな。

 言ってることは筋が通っているだけに否定も出来んだろう?」

「ええ。実際、色々とダメージもあったので休養は必要でしたからね。

 おかげですっかり健康体ですよ。模擬戦前より調子が良いくらいです」

「ほう。ならもう一戦やってみるか? 今度は勝てるかもしれないぞ」

「魅力的な提案ですが、今回は遠慮しておきます。また栞さんに軟禁されてしまいますからね。

 やりたい事もありますから、また次の機会にということで」

「そうか。手合わせ程度なら時間の空いた時に付き合うから、いつでも言うといい。俺自身の鍛錬もある。

 ……エアやクラナドに何やら不穏な動きがある。すぐにとは思えないが、いつ攻めてくるか分からない。

 いつでも動けるよう、体力や魔力を温存しておけ」

「御意」

「では―――」 

 祐一が右手を差し出す。

 陽司はそれを右手でしっかりと握った。

「改めて。これから、宜しく頼む」

「存分に。―――我が王」
































 訓練場の地面に展開された魔法陣がゆっくりと消えていくのを見届けた後、陽司は大きく息を吐いた。

「ふぅ……『無心』、これで全部か?」

『うん、今のところはこのくらいかなー』

 祐一と話した後、陽司は直接訓練場へと赴いていた。

 目的は『無心』が覚えているという神剣魔術を習得することだ。

 戦術の幅を広げることは、手っ取り早い戦力の増強になる。

 現在の戦法にすぐ組み込める可能性もあるために早めに済ませておきたかった。

 それで、実際に始めてみると……

「……まさか攻撃系の神剣魔術が全く無いとはな」

 『無心』が提示した神剣魔術は、その全てが防御・支援系のものだったのだ。

『だ、だって無いものは無いんだものっ!』

「一つくらいないのか? ほら、『エクスプロージョン』みたいなのもあるんだしさ」

『…………なにそれ』

「…………」

 嫌な予感。

「……空中に爆発を発生させる神剣魔術、無かったか?」

『あー……あれね………………術じゃないの』

「はぁ!?」

 詠唱は自己流だったとはいえ実際に発動していた。

 術じゃなければ何だというのだろうか。

『あーこんなのやって欲しそうだなー、って思ったら、そういうものを再現してたんだ。

 その爆発魔術っていうのは、爆発起こしたい場所に力をぎゅっと固めてね? タイミング合わせて解放してたんだ』

「…………俺の詠唱は?」

『特に要らなかったかな』

 ばっさりと斬り捨てられ、ずーんと落ち込んでしまった。

 四つん這いになってひたすらに凹む。

「俺の十年って……」

『ほ、ほら! これからはボクが意思を汲んでやってみるからさ!

 発動とか楽になるよ!』

 道理で、高度な魔術の部類である指定空間の爆破を簡単に行えてたわけだ。

 細かい制御は『無心』の側で勝手にやっていたということか。

 そんなことを考えていて、ふと気付いた。

「それ、普通の神剣魔術とかでも出来るのか?」

『うん、出来るよ? 魔力とかはヨージのを使わなきゃいけないけど、術式の用意はボクがやれると思う。

 発動はヨージにやってもらわないといけないから、完全にボク任せというわけにはいかないかな』

「よしそれでいこう。俺は魔術とか苦手だしな」

 中々ショッキングな事実も発覚したが、有用でもあったから良しとしよう。

 新しい神剣魔術も戦闘で使えそうなものが多い。

 特に防御系の術はすぐにでも戦術に組み込めるだろう。

 試しに擬似標的の攻撃を受け止めてみたが、ビクともしなかった。

 どの程度で壊れるかは、後日軍の主要メンバーに協力を頼んで実験をする必要がある。

 低火力から高火力までを使い分けられる者といえば、魔術師あたりが適役だろう。

 他の神剣魔術も、試用に他者の協力が必要だ。こちらは誰でも構わないが、数が必要になる。知り合いを数人当たってみることにしよう。

「―――神剣魔術に関しては、こんなところか」

『練習とか、しなくていいの?』

「訓練は毎日やることだ。一度にばっとやったところで効率は悪いし、魔力を使うからいきなり召集かかったら困るしな。

 だから明日以降でいい。

 それよりも大事なことがあってな……」

『何?』

 顎を擦りながら、言葉を捻り出す。

「……俺は、魔力の運用が苦手だ。神剣を通したオーラフォトンではなく、単純に魔力としての使用だな」

 パワー重視ではあるが、陽司の戦闘スタイルは近接戦士型だ。

 基本である身体強化と、属性を利用して魔力を通した土の操作。これくらいは出来る。

 だが身体強化はともかく、土砂の操作は大雑把で効率も悪いのは自覚している。

 大雑把でも効果の出せるよう、若しくは時間をかけて正確な操作を行えるように工夫は凝らしてきた。

 しかし工夫では限界がある。自分の地力が上がっている訳ではないのだから。

 即戦力の強化は『無心』の目覚めによって叶えられた。

 これからは腰を据え、実力の向上に励むべきなのだ。

『うーん……それはボクじゃどうにもならないかなぁ』

「端から期待してない」

『ひどー!?』

「魔力運用と言ったら、やっぱり高名な魔術師になるか」

 『無心』の抗議を無視しながら知る限りの魔術師を脳内にピックアップする。

 カノン王国で実力者の魔術師と言えば、魔術部隊長の倉田佐祐理、侍従長の鷺澤美咲。

 民間協力者だが教師の芳野さくらと診療所で世話になった美坂栞。後はワンから出向いている文字魔術の世界的権威、上月澪。

 こんなところだろうか。

 教師であるが故に教えを請うには適していると思われる芳野さくらは、対エア戦で重傷を負い封印されているため除外。

 倉田佐祐理もエア・クラナド双方と緊迫している現状、部隊長の仕事に忙殺されているだろう。除外。

 残った三人の中で最も適役なのは―――





























『魔力の運用?』

 宙に描かれた文字に、陽司は頷いた。

 王城の廊下で上月澪を見つけ、教示を願っていた。

 数度すれ違って挨拶を交わしたことはあったので、気配を探って歩き回った。

 ただでさえ魔力の多い澪だ。見つけるのは容易なことだった。

『でも陽司くんは永遠神剣を持ってるから、魔術は使えないの』

 永遠神剣所有者は魔術を扱うことが出来ない。

 理由は不明だが、永遠神剣を持つ者や魔術に関する研究者の間では常識だった。陽司も知っている。 

「はい。ですから教わりたいのは、魔術ではなく魔力の繰り方です」

 魔術師に限らず、戦いを知る者ならば誰しもが魔力を使う。

 身体能力を上げる、攻撃を受ける部位に魔力を集中させて軽減する、物質の表面に魔力を付与して強度や破壊力を上げる等。

 呪具や法具の使用にも魔力を要する。

 魔術とは魔力運用の一部分でしかない。

 そんな魔力運用に共通するのが魔力操作だ。

 優れた魔力操作能力を持つ者は、少ない魔力で大きな効果を上げられる。選択肢も非常に多くなる。

 天性のものも大きいが、後天的に身に付けられないものでは断じて無い。

「上月さん。俺に魔力操作を教えて下さい!」

 小さな澪より更に頭を低く下げる。

 高名な研究者でもある澪の時間を取るのは心苦しいが、有名な魔術師がこんな近くに居るというのはまたとないチャンスでもある。

 どのような見返りを求められても応じるつもりだった。

『別に構わないのー』

 上げた視界に移るあっさりとした肯定の文字列と澪の笑顔に、覚悟していた分拍子抜けもした。

「あの……お礼とか、何か……」

『いらないの。教えるのは好きだから』

 そういえば、上月澪はワンで魔術学校の教師をやっていると聞いた。

 研究者という部分もあるだろうが、教え子が上達するのを見るのが好きだということか。

 ならば、一刻も早く上達するのが最大の恩返しだろう。

「―――はい。ありがとうございます!」

『それじゃ、訓練場に行くの』

 踵を返した澪の後を追い、陽司は歩きだした。















『普通なら簡単な魔術を見せて貰うけれど、陽司くんは魔術師じゃないから方法は任せるの』

 要は魔力を用いた技を見せろということだ。

 神剣魔術は術式が独自のものなので不適切だろう。

 土の地面を探して移動し、魔力を開放した。

 いつもならば腰の神剣を握るところだが、今回は自身の実力を見て貰う機会だ。両の拳を握り、全身に魔力を行き渡らせる。

(『無心』、手助けは無しでな)

『りょーかーい』

 右手を振り上げる。

 内なる魔力を拳に集中し、思い切り地面を殴りつけた。

「『岩壁』!」

 撒き上がる土が魔力によって固められ、小さめの『岩壁』が作り上げられる。

 完成したものを手で軽く叩くと、硬い感触が返ってきた。

 細かい土質なので少し不安だったが、硬度は十分のようだ。

 どうですか、と聞こうとして振り返る。

 しかしそこに澪の姿は無い。

「……あれ?」

 周囲を見回し、すぐ隣に澪の姿を見つけて驚いた。

 自分と同じように土の壁を手で触れ、様子を確認している。

 どこか呆然としたように、

『陽司くん、これ誰かに習ったの?』

「いえ、我流です。いつもは拳じゃなくて神剣を叩き付けてやるんですけどね」

 インパクトの瞬間、同時に地面へと魔力を通す。

 撒き上がる魔力を含んだ土砂に操作を加え、壁の形に固定することで『岩壁』は完成する。

 陽司が自分なりの理屈を説明する間、澪は黙って聞いていた。

 壁に込められた魔力が消える頃、澪はゆっくりと指で文字を描いた。

『これは、魔力を用いた戦技とは違うの』

「……え?」

『一般的な魔術とは違うし、構成も粗いけれど―――術式があった』

 術式があり、それに則って魔力を用いる術。

 それは紛れもない、

『これは魔術。それもオリジナル魔術なの』

 言葉を失った。

 永遠神剣保有者は魔術を使用出来ない。それは常識だ。

 しかし澪は陽司の技をオリジナルではあるが魔術だと言う。

 陽司は混乱する頭で考え、絞り出すように口にした。

「神剣保有者は魔術を扱えない。でも俺が扱っているのは魔術。……つまり俺の持ってるコレは永遠神剣じゃない、と?」

『ちょっと、その結論酷くない!? あとコレ扱いするなー!』

 抗議の声は陽司にしか聞こえないので、陽司がスルーすれば突っ込む人間はいない。

 澪は首を振った。

『永遠神剣は分かりやすい特徴が幾つもあるから、偽物ということは無いと思うの。

 ……実は、例は少ないけれど神剣を持ちながら魔術を扱えたという報告があるの』

「特殊な神剣ではなくて、ですか?」

『そこまでは分からないの。剣格も形状も違ったらしいから。数自体も少なくて、法則性を見出すには絶対数が足りないの。

 でも、今のところ使えた魔術は共通して―――古代魔術なの』

 古代魔術。

 文字通り古代に作られた魔術で、詠唱を必要とせず発動が容易な代わりに、多大な魔力を必要とし行使は困難であると聞く。

 神剣保有者は神剣魔術以外の練習そのものが出来ない。

 古代魔術を扱えるのは、神剣を持つ前は実力ある魔術師であった者か、天性のセンスがある者だけだろう。

 数が少なくて当然だ。

『でも陽司くんの使った魔術は魔導書に記されていたり、誰かに教わった物じゃない。

 オリジナル魔術に違いないの』

 だから、

『陽司くんの神剣が特殊かどうかは分からないけれど、少なくとも魔術を扱える。

 それに魔力量もかなり多いの』

 つまり、

『魔術の訓練を積めば、きっと役に立つの』

 澪から示された結論に、陽司は黙考する。

 かつて故郷にいた頃、魔術の練習をしたことがあった。

 既に神剣を持っていた自分は当然成功しなかったが、そんなことを知らなかった当時、自分には才能が無いのだと残念がったものだ。

 以降近接戦闘一本に絞って鍛えてきた。

 魔術を抜きにしても魔力の扱いが得意でないのは旅を通じて分かっている。

 しかし今必要なのは手札。より多くの状況下で満足に戦えることが第一。

 苦手であっても避ける理由はない。

「お願いします。俺に魔術の扱い方を一から教えて下さい」

 再度頭を下げた。

 答えは分かっていても、頭を下げずにはいられなかった。

 数秒の後、顔を上げた陽司の視界に映ったのは、

『構わないのー』

 にっこり笑顔の澪と、その指先が描いた光の文字だった。




































 あとがき

 月陰です、こんにちは。

 途中テキストデータを入れたUSBメモリが行方不明になるという事態が発生しまして、少々遅くなりました。

 無事見つかったから良かったのですが。……今度から本体の方にもこまめに保存しておきます。

 ああでも本体も最近調子悪いんだった……。


 第七話。

 一種のパワーアップイベントでしょうか。新たな神剣魔術の習得、新事実の発覚、修行の開始。

 習得した神剣魔術は防御系と支援系ばっかりです。

 本気で攻撃系が無いで御座るな!

 陽司「魔力を高めて物理で殴ればいい」 無心『それ脳筋の発想だと思うかな?』

 戦闘をお待ち下さい。

 ではまたー。



 H23.12.30 コミケ三日目参戦準備をする年末の夕方